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一瞬一瞬が特別な演奏   

beethoven: violin concerto, symphony no. 3
joshua bell (vn), riccardo muti / po @royal festival hall


ダヴィッド・フレイのお義父さん、指揮界の帝王、リッカルド・ムーティさんの65歳のお誕生日記念コンサート。と今までずうっと思っていたんだけど、実はお誕生日はフィルハーモニアのでした。うっかり。とっても人気のある音楽会で会場もほぼいっぱい。わたしがチケットをとったときも一番安い席はもうなくて、3番目くらい安い席をとりました。フンパツ。
始まりはヴァイオリン協奏曲。最初のティンパニを、何しろフィルハーモニアのティンパニだからどんどんフォルティッシモで叩くかなって思ってましたがちゃんとピアノでした(って冗談で思ってたのよ)。今日のティンパニは、普段と違う皮を張っていました(本皮かどうかは分からないけど)。ヴァイオリン協奏曲でのティンパニは終始控えめでした。ってヴァイオリン協奏曲を聴いてティンパニの話ばかりしてるってどうよ。なので、話を本題に戻して。ヴァイオリン独奏は、うふふ、ジョシュア・ベルさんでした。相変わらずかっこいい〜、うっとり。ベルさんの弾く姿がとってもステキなのよね。頭のてっぺんに見えない糸が付いてて上に引っ張られてる感じ(うわっ、この書き方かっこよく見えない)。そのベルさんのヴァイオリンがなんだかとってもびっくりしたんです。ベートーヴェンといったら形から入るじゃない。ベートーヴェンって厳格な構築や主題操作をした人だから。でも、ベルさんの演奏はそんなことには一切かまわず自由。とにかく自由。伸び縮みのあるテンポや、強弱の付け方、ドキッとするさりげないポルタメント、ものすご〜い歌に溢れてた。こんなに自由に歌ってよく形が崩れないものだと思ったわ。この曲が緻密な構成にあまり依存していないのもあるにしても。ムーティさんはそのベルさんの音楽をサポートするのに徹していました。オーケストラの付け方は控えめで常にベルさんが前面です。帝王と呼ばれてる人だからさぞかし強い自我のある人だと思ってたら、こういうサポートもできる方なのね(ってか帝王というのはまわりの人が勝手に付けた印象だとは分かっていますよ)。ベルさんの自由に任せて、しっかり伴奏。でもこれってものすごく大変よね。全くほころびがなかったのは、事前にきちんと打ち合わせていたのか、ふたりの相性がいいのか、ムーティさんが凄いのか。こんな美音で囁かれたらもううっとりとしてとろけてしまいそう。だって、ベルさんは、美しいもの、優しいもの、心温まるもの、甘いもの、甘酸っぱいもの、人間の良い面だけを静かに丁寧に語り聴かせてくれるんだもん。純粋なポジティヴ。それなのに決してただの甘ったるい音楽になっていないのが凄い。たくさんのドキドキする瞬間。はっとするときめき。ベートーヴェンをこういう風に演奏するのって実はとっても勇気のいることなんじゃないかと思います。それに、人間の良い面だけを聴かせてなお嘘のないのは、音楽そのものが真実だから。それを見つめて音にすることは、暗黒面も含めたありのままの人間をただ見せるより、もっともっとエネルギーのいることだと思うんです。夢見てるだけじゃないリアルな幸福を創出するんだもの。至福なときってこういうことを言うのですね。
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休憩の後の交響曲第3番も素晴らしかった。曲を始める前にムーティさんからこの音楽をフィルハーモニアをリタイアした方達を含めたメンバー、そして特に数日前に亡くなった元フィルハーモニアのコントラバスの方に捧げるというアナウンスがあって、それに応える会場の拍手が鳴りやむか鳴りやまないかのうちに始まった音楽。ものすごく緊張に満ちて、奇をてらうことなく真っ直ぐ王道を行くベートーヴェン。昨今の古楽器ブームな演奏には一線を画した近代オーケストラの堂々たる演奏(ただし木管楽器は倍加してるけど例えばトランペットのメロディなんかは楽譜通り)。ムーティさんは今日初めて聴くのだけど、こんなに凄い人だとは思わなかった。全くレベルの違うオーラを発してて、ベートーヴェンの書いた音楽とオーケストラを一体化してる。ムーティさんは指揮を止めたり細かい指示はせずにオーケストラの自発性を最大限に引き出しながらも確固として揺るぎのないベートーヴェンを創り出していく。どこを切ってもフレッシュで音楽が生まれる喜びに満ちていて、一瞬の隙もない音楽。オーケストラも素晴らしい演奏で応えていく。特に印象に残ったのはたっぷりとゆっくりとしたテンポで、でも決して引き摺らず重くならずに、進められた葬送行進曲。この楽章の自由なコントラバスの扱いにはうんと感動しました。こんな弾き方弾かせ方ができるんだって。それからもちろんティンパニ。協奏曲では控え目だったけど、交響曲では要所要所でしっかり楔を打って音楽を決めてくれた。ああ、それにしてもムーティさんってなんてステキなんだろう。今まで聴く機会が何回かあったような気がするけど、まあいいやと思って聴かなかったけど、これからはチャンスがあったら全部聴くっ。だって音楽の神さまはムーティさんを祝福してくださってるに違いないから。あの会場にいた人たちはなんて幸福だったんだろう。
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by zerbinetta | 2010-03-30 09:00 | フィルハーモニア

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