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懐かしい旧友との再会 でも疑ってごめんね   

prokofiev: symphony no. 1, violin concerto no. 2
tchaikovsky: symphony no. 6
chloë hanslip (vn), leonard slatkin / rpo @royal festival hall


レナード・スラトキンさんとロイヤル。フィルの音楽会をうきうきしながら聴きに行きました。だって、スラトキンさんと言えば、わたしがUSに住んでいたとき、我らがナショナル・シンフォニーの音楽監督だったんです。ナショナル・シンフォニーの底の時代から新しいコンサート・マスターを得てぐんぐん良くなってきた時代の苦楽を共にした仲(なんて大袈裟ね。わたしは聴いて応援していただけ)なんですもの。最近、メトの降板劇もあったりで(メト側もかなり酷いような気がします(ただし外野の勘ぐり))心配していたんですがお元気そうで何より。懐かしい姿を見ると嬉しくなちゃっいますね。

プロコフィエフの古典交響曲は溌剌とした演奏。スラトキンさんは音楽をとても分かりやすく演奏してくれるので、迷子にならない安心感があるの。その啓蒙的な演奏スタイルが物足りなく感じることもあるんだけどね。わたしの感じるところだと、ロイヤル・フィルに来るお客さんってクラシック初心者さんが多めな感じがするので、スラトキンさんの演奏スタイルは合ってるんだと思います。わたしもナショナル・シンフォニー時代はスラトキンさんからずいぶんと多くを学びました(難しい曲だと演奏の前に解説があったり、ベートーヴェンの交響曲のいろんな指揮者の施した編曲をオーケストラを使って説明してくれたり(マーラー版のベートーヴェンを演奏したとき)、音楽会後のディスカッションがあったり、シーズンのプログラミングの仕方に配慮があったり)。でも、ドキッとする瞬間もあって、メニュエットで最後の方、テンポを落としたのは、こんな演奏もあるんだって目から鱗でした。

2曲目は同じくプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番。プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲は一時期はまっていたことがあって、大好きな曲なんです。でも聴くのはものすご〜〜く久しぶり。ソリストはクロエ・ハンスリップさんという方。初めて聴く人ですが、プログラムによるとイギリス出身の22歳! またまた若手美人ヴァイオリニストの登場です。
協奏曲はいきなりヴァイオリンのソロで始まるんだけど、細いシャープな音で始めるかと思ったけど(わたしの持っていたCDの演奏がそうなので)、意外に線の太いふくよかな音で始まってびっくり。おやや、どうなるのかしらと思っていたら、わたしの想像とは全く違う演奏。この曲って、ベートーヴェンみたいな端正で楚々とした美を湛えている音楽だと思ってたんですよ。ところが彼女の生み出す音楽は、アグレッシヴでワイルド。プロコフィエフの持っていた凶暴さを引き出しています。決して力任せに弾くとか、わざとらしく激しく弾くとかそういうことはしていないのに、まるで成熟した巨匠のような完成された演奏で、音楽が自然に表現されているの。以前「協奏曲の伴奏を務めるときは、その曲を指揮者よりも熟知しているソリストに合わせる」とおっしゃっていたスラトキンさんの伴奏もアグレッシヴで完璧に彼女の音楽をサポートしていました。クロエは、ときどき指揮者を見たり、リーダーを見たり、自分の世界に閉じこもってしまうのではなく、全体を聴きながら音楽を創っているのでしょう。その姿勢にも好感が持てました。ヴァイオリニストにしては丸っこい手だけれども(サラ(・チャンさん)もそうですね)、技術的にもものすごくしっかりしていてほとんど不安定なところはありませんでした。恐るべき若手。アリーナといい、ニキといい、イギリスからどんどん若手のステキな美人ヴァイオリニストが出てきますね。うらやましいです、天に二物も与えられて。わたしなんて一物ももらってないのに。それになぜか、彼女らのレパートリーが普通でない。ニキのメジャー・デビューはコンクールで弾いたシマノフスキの協奏曲だし、アリーナのCDもハルトマンとかロスラヴェッツなんて聞いたこともない人の協奏曲だし、クロエも知らない作曲家のCDばかり出してるし、彼女らにとって20世紀の複雑な音楽も普通の音楽でしかないのかな。この人もしっかり注目していきたいと思います。
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最後はチャイコフスキーの悲愴。実は全然期待してなかったの。ほら、さっきも書いたじゃない、スラトキンさん音楽って啓蒙的で物足りなく感じるときがあるって。悲愴はその弱点がもろに出ちゃうと思ったの。それに、今のロンドンだったら、例えばユロフスキさんとロンドン・フィルがすごい演奏しそうだし、フィルハーモニアもテミルカーノフさんが今度採り上げるし、去年はパパーノさんとロンドン・シンフォニーでステキなのを聴いたから。と思ったのもつかの間、最初の音が聞こえたときから、尋常じゃない雰囲気を感じました。ゆっくり目の演奏で、音楽に込めるエモーションの大きさがすごい。もちろんスラトキンさんらしい、全体を見通した分かりやすい音楽なんですけど。金管楽器の盛り上げ方(この演奏ではトランペットやトロンボーンの金管楽器が光ってた)や、大太鼓の鳴らし方(めいっぱい叩かせていました)がとってもステキで、弦楽器なんかは若干弱いところもあるんですけど(楽器間の音の受け渡し方とか)、うんと良い演奏だったと思います。でもそれよりも、なによりスラトキンさんの音楽が、とても良く分かって、というか、6シーズンもずっと聴いてきたので、彼が何を考えてどう表現するか耳が覚えてた、例えるなら、どんな行列のできるラーメン屋さんよりもずうっと食べてた近所の名もない普通のラーメン屋さんのラーメンが無性に好きなように、彼の音楽がわたしにまだ染みついてたみたい。昔に戻ったみたいでとても安心して聴くことができました。スラトキンさんもわたしもちょっぴり歳をとったけどね。ものすごく幸せを感じた音楽会でした。

by zerbinetta | 2010-05-17 08:16 | ロイヤル・フィルハーモニック

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