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プロムス始まりました   

mahler: symphony no. 8
mardi byers, twyla robinson, malin christensson (sp),
stephanie blythe, kelly o'connor (ms),
stefan vinke (tn), hanno müller-brachmann (br),
tomasz konieczny (bs)
choristers of st paul's cathedral, choristers of westminster abbey,
choristers of westminster cathedral, bbc symphony chorus,
crouch end festival chorus, sydney philharmonia chorus,
jiří bělohlávek / bbc symphony @royal albert hall


昨日、CLASSICAで、BBC Proms 2010開幕の記事を見て、えっもう始まっちゃたの? わたしチケット買ったのに、日にち間違えちゃった(前科あり)って大あわて。日本とは半日ずれてるので日本の今日の深夜からは、イギリスの明日なんですね。良かった。
というわけでプロムス始まりました。わたしとしては同時に始まったスイスのヴェルビエ音楽祭の方が気になるんですけど、お金もないし忙しいのでこちらは断念。ネット・テレビで観ることにします。さて、プロムスの初日、1週間ほど前にキューに並んだら取れたので行ってきました。初めてのプロム、初めてのロイヤル・アルバート・ホール。初めてのマーラーの交響曲第8番です。
ロイヤル・アルバート・ホールのあるケンジントンの周辺は煉瓦色の建物が多くて、とっても良い雰囲気。歴史を感じさせます。ロイヤル・アルバート・ホール自体も美しい建物です。スタジアムのような円いホールでステージの後ろにもステージを取り囲むように席があります。今日はこの席は合唱で占められていましたが。わたしの席は2階(日本では3階)のボックス席。何の予備知識もなくて買ったんですが、ボックス席なのでちょっぴり高級感。25ポンド、ちょうど真ん中くらいのお値段です。とても大きなホールなので心配してましたが、わたしの席からステージまでは意外と近かったです。そしてホールの響きは思ったよりずっと良かったです。残響も適度にあってロイヤル・フェスティヴァル・ホールよりもいいかもって思ったくらいです。天井はドーム状になってるので教会的な響きかな。祝祭感満載で、わくわくする雰囲気。今日の音楽にぴったりじゃないですか。

千人の交響曲は意外と小さな編成でした。合唱は少年合唱を入れて500人から600人くらいだと思うんだけど、オーケストラは必要最低限。コントラバスは8人、ヴァイオリンは各14人か16人くらい。木管楽器も金管楽器も倍管していません。それで音量が足りないとか、迫力がないとかそんなことはなく、ビエロフラーヴェクさんのさばさばとした音楽作りに合ってたと思います。オーケストラのメンバーがトラを入れずに普段の音楽会とほぼ同じだというのもアンサンブルもしやすかったんじゃないでしょうか。とは言え、合唱や独唱、ギャラリーのバンダまで含めるとかなり距離が離れていてところどころアンサンブルが揃わないところは致し方のないことかしらね。でも、そんな瑕はCDで聴き慣れてるから感じることでしょう。会場でわくわくしながら聴いてるのにはほとんど気になりません。それにしてもこの交響曲、ほんとに祝祭的な雰囲気にぴったり。マーラーの音楽の中でぽつんと異質な感じがするけど、マーラー自身はいったいどんな思いでこの曲を演奏したのかしら。当時会場にいた人たちはどんな風にこの破天荒な音楽を受け止めたのかしら。なんだかわたし自身、1910年9月12日の人と気持ちを重ね合わせてるように感じました。わたしにとってもこの曲は生で聴くのは初めてですし、コンサート・ホールでよりもこういう劇場的ホールで聴くのがふさわしい気がしています。
ビエロフラーヴェクさんの音楽は、とっても誠実。華美に飾ることもなく、勢いにまかせて突っ走ることもなく、極めて自然体に音楽的に演奏してくれました。基本のテンポは速めと言えば速めかなくらいで、ゆっくり歌うところではテンポを落としてメリハリを付けています。印象的だったのはオルガンの音。ほの蒼く光を反射してる大オルガンの響きはこのホールにとっても良く合っていて、オルガンの音楽会も聴きに来たいなって思ったほどです。特に第1楽章の短い音のアタックが耳に刺さるのが気持ちいい。それから突然ギャラリーの高いところから聞こえてきたバンダの金管楽器。むちゃ効果的。2つの合唱もとっても良かったです。この音楽が合唱付きの交響曲ではなくて、オーケストラの伴奏付きの合唱曲であるということを思い知らされました。少年合唱は60人くらい。初演のときは350人くらいで演奏しているので、バランスは初演のときとは違うように聞こえるんでしょう。今時少年合唱を350人も集めるって現実的じゃない気もするけど、マーラーが指揮をした演奏はどんな風に聞こえていたのかちょっぴり気になります。CDでいろんな演奏を聴き慣れてる耳には少年合唱350人は膨らみすぎのような気もしますが(実際に大人数の少年合唱を使ってる録音ってあるんでしょうか)。独唱者はさすがに8人の歌手をたった1回の音楽会のために集めるのは難しいことのようで、録音販売用にセッションを組まれたものには劣ります。でも、ライヴですから。生の声が耳に届くことのなんと贅沢な喜びでしょう。その中では圧倒的にメゾ・ソプラノのステファニー・ブライスさんが良かったです。完全に頭2つ飛び出てました。メトでも何回か聴いたことがあったんですが、あの頃からさらに磨きがかかったようです。大きな体を活かしての声量と響きの良さは本当にステキ。もうひとりのメゾのケリー・オコーナさんやテナーのステファン・ヴィンクルさんもがんばっていましたが、やっぱりブライスさんでしょう。

あの劇場の中はまるで別世界でした。千人の交響曲なんて一生のうちに何回も聴けない音楽ですし、何回も聴かないのがふさわしい音楽だと思います。特別な体験を語り継いでいくような、もはや音楽の枠には入りきらず、音楽によって震わされた内なる宇宙が身体の中に残って、実体になる。プロムという祝祭的な空間でその初日の音楽会での体験はCDでどんな優れた演奏を聴いても消えることのない記憶となるでしょう。わたし自身が鳴り響いたのだから。

ロイヤル・アルバート・ホールの巨大な祝祭的なステージ
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女性歌手陣 ブライスさんは手前から二人目
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男声歌手陣 アリーナ席とステージは手の届く距離ですね
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ビエロフラーヴェクさん
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by zerbinetta | 2010-07-16 20:46 | BBCシンフォニー

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