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アリーナといえば   

tchaikovsky / kurt-heinz stolze : onegin
johan kobborg (eugene onegin), steven mcrae (lensky),
alina cojocaru (tatiana), akane takada (olga), etc.
john cranko (choreography)
valeriy ovsyanikov / royal ballet @covent garden


もちろんわたしの中では、イブラギモヴァさんなんだけど、今日はコジョカルさんです。今シーズンのバレエ始まり、久しぶりにコヴェント・ガーデンに行ってきました。
でもその前に、日本人として、高田茜さんを紹介させてください。高田さんは、ローザンヌ・バレエ・コンクールの奨学生としてロイヤルで研鑽を積んだ後、昨シーズンから正式にロイヤルに入団しました。演出家の方に気に入られたみたいで、すでに名前の付いた役を何回か踊っておられ、わたしもいくつか観ました。そして、今シーズンからファースト・アーティストに昇格。今シーズンのオネーギンではなんとオルガという大きな役をもらってます。この役は、ファースト・ソロイストの人がふたりもらっていますが、今日の高田さんと、ソロイストにあがったばかりのメリッサ・ハミルトンさんももらっていて、このおふたりは大抜擢と言って良いでしょう。ハミルトンさんの踊りは前に観て印象に残っていますが(もちろん高田さんも!)、注目してた方が昇格したり、大役をもらったりするとやっぱり嬉しい! その高田さん、初めての大役なのに臆することなく堂々と踊っててすご〜いっ。第1幕の前半や第2幕の前半はもう主役と言っていいくらいに踊るんだけど、これがもう本当にステキで。彼女の許嫁のレンスキー役はプリンシパルのマクレーさん(都さんのさよなら公演でパートーナーを踊った方です)。彼女の踊りは手の表情がとっても柔らかくてステキで、指先まで完全にコントロールされてる感じは都さんに似てると思いました。彼女の歯切れの良い若々しさは、役どころのオルガの明るくおきゃんな性格にとってもぴったりで、この舞台彼女が主役なんじゃないかって思いました。パートナーのマクレーさんも上手に彼女を支えて、流石、切れのある踊りで魅せてくれました。

一方のコジョカルさんのタチアナは、物静かで内向的。タチアナとオルガは田舎の令嬢姉妹。最初のシーンでは、妹のオルガばかりが目立つので、今日はあんまり活躍しないのかなって思ったら、第1幕後半の鏡のパドドゥのもの凄かったこと。正直びびりました。すざましいばかりの切れ、速さ、特にオネーギン役のコボーさんの首に飛びついて回転するところなんてもう神業。コボーさんとのパートナーシップの完璧さもあるけど、人間にここまでできるのかって思ってしまいました。このシーンは、オネーギンに一目惚れしたタチアナが夜恋文を書いてるうちに鏡の中から現れたオネーギンと情熱的な踊りを踊る夢の中のシーンだけど、初めて恋を知った少女の抑えることのできない情熱と妄想。初めての感情に暴走していく少女。それが、踊りの中に見事に表現されていました。踊りのスピード感、技術的な派手やかさはこのシーンがクライマックスでしょう。でも、このバレエのステキさは、踊りによる細やかな感情表現にあると思います。オルガに会いに来たレンスキーに連れられてラーリン家にやってきた親友のオネーギン。都会的なオネーギンを一目見て恋に落ちるタチアナ。最初のオネーギンとタチアナのデート・シーンはどこかよそよそしいオネーギンと恋に落ちたタチアナのちぐはぐな感じ。
第2幕のパーティー・シーンでのオネーギンを見るタチアナの目とオネーギンのやる気のなさ、虚無感。そして、タチアナからの恋文を彼女の目の前で破り捨てるオネーギンとタチアナの絶望。さらには退屈しのぎにオルガにちょっかいを出すオネーギンとちょっと火遊びをする振りをするオルガの無邪気な明るさ。嫉妬に狂い我を忘れてオネーギンに決闘を申し込むレンスキーに冗談冗談と取り合わなかったオネーギンもことの成り行きで手袋を拾ってしまう(決闘を受け入れるサイン)。ふたりの決闘を必死に止めさせようとする姉妹。親友を殺してしまう絶望するオネーギン。これらのドラマが、言葉で語られるより真実を持って踊りで伝わってきます。
それから数年を経た第3幕では、タチアナはサンクトペテルブルクのグレーミン侯爵と結婚してる。そのグレーミン家のパーティーに放浪の果てに奇しくも参加するオネーギン。タチアナの姿を見てタチアナに愛があったことに気づくオネーギン。つれないタチアナ。オネーギンからの手紙を読んで心を揺らせるタチアナ。でも最後には強い意志でオネーギンを去らせる彼女。

あらすじを読むと、オネーギンは自分勝手でとっても嫌なやつ。わたしもそう思った。でも、バレエを観るとオネーギンがもの凄く嫌なやつには見えないんです。オネーギンを踊ったコボーさんがとっても繊細な踊りで、彼の中に宿ってる青春の未熟や満たされない思い、悲しさを見せてくれたから。青春時代に誰にでもある、若さゆえの失敗、未熟さ、傲慢さ、そして後悔、をわたしの中に思い出しました。オネーギンって特別な人ではなくて共感できる、少なくとも分かる部分がある、わたしと同じところで生きている人物なんです。登場人物みんなの未熟さ、少しずつの失敗が結果大きな悲劇を生むドラマだけど、わたしも同じような失敗をしてきたんだ、と思えるんです。コボーさんの踊りにはそれを表現するだけの力がありました。
最後のシーンのコジョカルさんの演技もとっても良かったです。わたしが読んだウィキペディアのあらすじには結末が書かれていなかったので最後、どうなるのだろうってはらはらしながら観ていました。突然現れた初恋の人オネーギンに揺れる心。そしてそれを乗り切って彼に別れを告げるタチアナ。でもそこに同時に深い悲しみが満ちていて、そんなひとりの女性の心の中を本当にしっかり表現していました。コジョカルさんとコボーさんの最後の踊りには息を飲んで舞台を見つめていました。ほんと凄かった。見終わったときは頭がぼーっとしてしまいました。目が熱くて胸が苦しかったです。青春の棘に心が痛みました。
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高田茜さんとマクレーさん
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コジョカルさんとコボーさん
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by zerbinetta | 2010-10-09 08:30 | バレエ

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