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ピアノを聴いたよりオーケストラを聴いた感じ   

3.11.2010 @queen elisabeth hall

chopin: four mazurkas op 30; no.1, no.2. no.3, no.4,
scherzo no.3,
two nocturnes op 27; no.1, no.2,
sonata no.2,
fantaisie in f minor op 49,
scherzo no.4,
from two nocturnes op 62; no.1
polonaise-fantaisie op 61
yulianna avdeeva (pf)


昨日のエントリーは今日これから書くことへの言い訳だったんです。ピアノのリサイタルに行ってきました。友達に誘われて。よく分からないのに。今回は全てショパンのプログラムでした。弾かれた中でちゃんと聴いたことのあるのはソナタの第2番くらい。さあどうしましょう。
世界的に活躍してる音楽家さんには、コンクールでの優勝で注目を集めたことがきっかけとなってる人が多いんです。特に大きなコンクールは世界中から注目を浴びます。ワールドカップに似て数年に1度しか開かれないものも多いし。ピアノのコンクールで特に有名なのはショパン国際コンクールでしょう。5年に一度開かれるコンクールはこの秋行われました。特に今年はショパン生誕200年の記念年だったので注目度もアップ。ネットラジオでコンクールの演奏が配信されたので世界中のファンを沸かせたのでした。あっわたし?わたしは聴いてないです。時間ないし、それに実を言うとコンクール、あまり好きでないんです。なんか、コンクール用の演奏とかあるような気がして。短い間に順位を決めるのは、弾く方も審査する方も大変だと思うんですよ。それにその結果はひとりの人間の将来を決定づける力があるし。わたしだったらとてもダメ。

なんて、すでに昨日長い前振りを書いてるのにまた前振り長くなっちゃった。今日は今年のショパン・コンクールの優勝者のリサイタルだったんです。チケットが売り出されたときには、もちろんコンクールの前なので演奏者の名前も曲目(ただ全てショパンの曲ということは決まってた)もなし。ショパン・コンクールで優勝した人、ってだけ。わたしは、聴きに行くつもりはなかったんだけど、友達に誘われたのでリターン・チケットを取って(チケットは売り切れてました)行きました。わたしがチケットを取ったときは、優勝者がユリアンナ・アヴディエヴァさんに決まっていました。そして、ネットなんかで彼女の優勝がファンの間で賛否両論あったことを知っていました。審査員の間では1次を除いて全てトップだったし、yesも唯一の満票だったので、票は割れていない当然の優勝だったみたいですが。なので、どんな演奏者なのかとっても興味がありました。

会場はサウスバンク・センターにある500人くらいの小さなクィーン・エリザベス・ホールです。ピアノを聴くにはちょうど良いくらいの大きさ。今日はちょっとしたイヴェントのせいか日本人多いです。有名なオーケストラやソリストが来ると日本人多いんですね。普段の地元の人の音楽会も聴きに来ればいいのにってつい悪態をついてしまいます。

ユリアンナさんは黒のパンツ・スタイル。ファイナルのときと同じ衣装ですね、きっと。細身の方で背が高い印象です。で、肝心の演奏なんですが、ごめんなさい、わたしピアノもショパンもあまりよく分からないので、大雑把な印象のみにしますね。わたしは、とっても良かったと思いました。結構男性的なずっしりとした重みのある音で、音色が多彩、和音がとってもきれいでした。例えば、スケルツォではきらきらした高音の速いパッセージの下に、柔らかな和音がもうこれ以上ないくらいの美しさで添えられていたり。わたしはコンクールを聴いてないので他の人との比較はできないけど、コンクールで優勝したというのは十分うなずけました。どの曲を聴いてもしっかりしていて安定感があります。そして、これはコンクールの賜物なのでしょうか、ショパンの音楽をとても勉強して弾き込んでいるという印象でした。自分の音楽をもっていて全くぶれや曖昧さがありませんでした。それから、クレッシェンドやデクレッシェンドなんかのダイナミクスのもの凄く正確なこと。フォルテやメゾフォルテ、ピアノがまさにそれしかないという音量で弾かれていたのです。わたしが特にいいなと思ったのは前半の第3番のスケルツォとソナタ第2番。ソナタ第2番はわたしが一番聴いているショパンのピアノ曲なので、少しは分かるのです。葬送行進曲を含んだこのソナタは、暗くて鬱々とした雰囲気があるのですが、ユリアンナさんの演奏はそれに重さが加わって、スケールの大きな音楽になっていました。第1楽章の不安と焦燥感。そして空虚。ユリアンナさんはこの曲の抒情的な部分をもの凄くストイックに弾いたせいか、甘美な慰めがなくて、心を孤にしたよう。第2楽章は遅いテンポで重いスケルツォ。かなり変わったショパンかもしれません。そして曲全体に言えるのだけど、アクセントをつけた音の強調の仕方が独特で、ドキリとさせられました。音楽をいったん細部まで分解して、組み立てなおした、といったら分析的な演奏って思われるかもしれないけど、そうではなくて、音楽の深部までしっかりと自分でとらえて音符や音符と音符の隙間も彼女自身の音楽で表現している感じがしました。それに音楽が自在。わざとらしくはないんだけど、かなりテンポに変化をつけていて、楽器を完全に自分のものにしている印象です。よく、器楽奏者が指揮者に転身する理由として、例えば、ピアノでは自分の音楽は表現できないって言うけど、彼女の場合、オーケストラの指揮では自分の音楽は表現しきれないんだろうなって勝手に思いました。彼女の楽器であるピアノでここまで自在に表現できるものは、他人を通してしか表現できない、指揮者では無理かなって。それほど彼女のピアノは彼女を表現していたし、彼女は自由にピアノを弾いていた。葬送行進曲はさらに壮大で、低音の行進曲のリズムと音楽のクレッシェンドが、なんだかオーケストラの展覧会の絵のビドロを聴いたような気分。そして重いトリルがマーラーの葬送行進曲を聴いた気分にさせたのでした。中間部の、孤独な美しさは心に沁みました。手の届かない彼岸の音楽は美しいが故に悲しい、悲しいが故に美しい。安易な慰めよりも真実があって心に突き刺さります。また重たい行進曲が戻ってきて、大オーケストラの音楽を聴いたときのような疲労感。これはホントに凄かった。お終いの虚無の蠢きといい、音楽がまさにそこにその通りに存在するのを目の当たりに見せられた感じ。もう完全に彼女の術中です。

休憩の後は、雪の降る町を以外はほとんど聴いたことのない曲でしたが、自分でもびっくりするくらい集中して聴けました。ファンタジーは全くファンタジックな演奏ではないのだけど、それでいてもの凄く良い演奏だったと思います。お客さんの反応も良くて、お隣の人も立ってブラヴォーを叫んでいました。わたしもとってもステキなものを聴いたと思います。聴きに来て良かった。誘ってくれた友達にはもう感謝いっぱい。アンコールは2曲。ワルツと、あっあとなんだったっけ?ごめんなさい、失念。

今日ちょっと残念だったのは、チューブのストのせいで遅れてきた方が多く、演奏の間の拍手のときに都度都度入れていたのですが、ユリアンナさんは拍手のあとすぐに演奏を始めるので、席を探すお客さんが気になってしまい、始めだけちょっと集中を削がれました。ユリアンナさんはもう自分の世界に入り込んでいたので、切れることはなかったのですが、会場を見て間をとる余裕が欲しかったかなって思いました。あと、もちょっとにっこりすればいいのになんて、関係ないですよね。

ユリアンナさんはもうすでにかなり完成されたピアニストの印象です。自分の音楽をしっかりもっていてとてもストイック。音楽のスタイルは違うけど、求道者ぶりはポリーニさんに通じるところがあるかもしれません。ただ、ストイックすぎて自分の裡に深く入り込む感じがするので、もしかすると協奏曲や室内楽を弾くより、ひとりでするリサイタルで良さが生きるピアニストかもしれません。これから、レパートリーを広げつつリサイタルで活躍していって、10年くらいして壁にぶつかったら、室内楽を始めて、共に創る音楽から音楽の幅を広げていったら、なんて勝手に妄想しています。
ユリアンナさんってショパン・コンクールで優勝したけど、ショパン弾きと言うより、例えばベートーヴェンやブラームスなんかを聴いてみたいです。あと、ロシアもの。展覧会の絵はぜひ、ですね。
ピアノを聴いたよりオーケストラを聴いた感じ_c0055376_753712.jpg

by zerbinetta | 2010-11-03 07:51 | 室内楽・リサイタル

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