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雷落ちた   

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11.12.2010 @barbican hall

wagner: tannhäuser, overture
marx: songs
strauss: an alpine symphony

christine brewer (sp),
jiří bělohlávek / bbcso


もしかして、今日は今シーズンのロイヤル・オペラの唯一の目玉、タンホイザーの初日だったんですね。わたしは、オペラはすっかり外して、序曲だけ。BBCシンフォニーです。だって、こっちの方のチケット前から取ってあったし、オペラはチケット争奪戦が凄かったんですもの。結局オペラは観ずに終わります。これはちょっと残念。

ビエロフラーヴェクさんとBBCシンフォニーのタンホイザー序曲はゆっくりとしたテンポで始まりました。始まりのホルンとクラリネットのブレンドは、わたしはホルン多めの方が好みなのですが、ビエロフラーヴェクさんはクラリネット多少多めでした。下の方の和声を付ける音をちょっぴり強調。合唱というのを意識したのかな、でもちょっとパートごとにテンポ感が違ったのがちょっと残念。音楽は、熱い演奏と言うよりも粛々とした感じが強かったです。ビエロフラーヴェクさんは、ワグナーをわりと距離を置いてとらえている感じ。ワグナーは麻薬みたいものなのでのめり込み系の演奏の方が好みかな。

ヨーゼフ・マルクスは名前を聞くのも初めての作曲家。オーストリアの生まれで、生まれたのは1882年、シマノフスキやコダーイ、ストラヴィンスキーと同い年ですね。1964年まで生きています。作風は同世代の作曲家よりも保守的で、後期ロマン派の残照を感じました。といっても今日歌われた歌曲は、1908年から1912年にかけての作品なんですが。ゴージャスなオーケストレイションはシュトラウスの歌曲の香りも感じます。今日歌われた8曲はそれぞれ独立の歌曲ですが、歌詞が深刻ではないので、とってもきれい。ソプラノのブリューワーさんはにこやかな笑顔で歌われて、うんとステキ。この人を聴くのは、もう何回目かですが、声量もめちゃあるし、力強いけど混ざり気のない澄んだ声で、ワグナーやシュトラウス歌いとして今絶好調ではないかしら。甘いクリームたっぷりのケーキを食べてるときのような至福の時でした。マルクスさんの他の曲も聴いてみたいと思いました。今日と同じ演奏者でCD出てるんですね〜。拍手とブラヴォーに応えて、ブリューワーさんとビエロフラーヴェクさんが相談して、歌った中から1曲をアンコール。最後に残しておいてイチゴにクリームをつけて食べた気分です。

休憩の後はシュトラウスのアルプス交響曲。アルプスに登った気がして好きなんですよ。そうそう、わたし、3年前(えっ?もう?)アルプス登ってきたんですよ。ユング・フラウ。って偉そうに言ってるけど登山列車で登ってきただけです。それでも富士山より高いところまで行くんですよ。そして山に登る手前の駅のまわりの牧場には牛。カウベルをつけてて、これがアルプス交響曲に出てくるのと同じに鳴るのです。アルプスの山を見ながらカウベルの音を聴いたときもうほんと、おんなじだ〜って嬉しくなったんですよ。そして雷。これは日本でひとりでとことこ山に登ったとき(って言っても駐車場から1時間くらい)、雷が鳴って、もうこれがすぐ近所、同じ高さで鳴るんですよ。怖くて怖くて、泣きそうになりながら山を下りました。雷の怖さは群馬県出身の先輩からとくとくと説教されていましたから。
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そういう光景が全部目の前に広がるんです。とっても写実的な音楽。でも、シュトラウスは、アルプスの雄大な風景を音にしたのではないと思います。シュトラウスの交響詩(この曲は交響曲と名前が付いてるけど実質的には交響詩です)って、ティルやドンファン、ドンキホーテ、ツァラトゥストラに英雄の生涯、どれも人を描いています。アルプス交響曲も実は、登山者=人を描いた音楽だと思うんです。そしてそれは単に登山の情景ではなくて、人生を描いている。そして自然=神(キリスト教の神ではないにしても)に対する畏怖の念も感じさせられるのは、オルガンの使い方のせいでしょうか。英雄の生涯の深化した焼き直しのような気がするのです。
ビエロフラーヴェクさんとBBCシンフォニーは、ストレイトにこの曲の魅力を引き出します。精緻に書かれた管弦楽法をきちんとトレースして、目の前にアルプスの光景を見せてくれました。今日は1階のオーケストラに近い席で聴いていたので、オーケストラの大音量のシャワーがとっても心地良くて。BBCシンフォニーってロンドンのオーケストラの中では地味で、人気もいまいち(バービカン・ホールの3階席はいつも閉めています)だけど、実はとっても上手い。そしてとっても安定していて、ロンドン・シンフォニーの次に実力があるのではないでしょうか。そして、放送局のオーケストラなので、財政的にも潤ってるのでしょうか、エキストラが少なくてオーケストラのメンバーがいつも一緒なのがいいのです(フィルハーモニアも上手いけどエキストラがとっても多いです)。そして、お客さんの質が高いような気がします。音楽好きが集まってる感じがなんか会場から感じられるんです。
それにしても今日の嵐は凄かったな。ティンパニの雷鳴が轟き渡って。あんなに強くティンパニを叩かせるとは、ステキです。そして、鉄の大きな薄い板をつり下げたサンダー・シート。これがいつ鳴り渡るのか今か今かとわくわくして待ってたのですが、シュトラウスはなかなか焦らすんですね。嵐のシーンの最後に金属的な雷が落ちました。ほんとに落ちたんですよ。金属板が。揺れすぎて外れたんでしょうね。楽器が鳴る最後の方だったので、気がつかないような事故でしたがしっかり目撃してしまいました。
最後はオルガンの音色で厳粛な気持ちに浸りました。夜の山は神秘で偉大。すっかりアルプスでリフレッシュした気分です。良い音楽会でした。

by zerbinetta | 2010-12-11 09:33 | BBCシンフォニー

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