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阿片でラリってるから   

16.02.2011 @royal festival hall

ravel: suite, ma mère l'oye
berlioz: la mort de cléopâtre, symphonie fantastique

anna caterina antonacci (sp)
yannick nézet-séguin / lpo


大好きな指揮者、ヤニック・ネゼ=セガンさんの音楽会となれば万難(ないけど)を排して聴きに行かなければ。
というわけで聴いてきましたとも。お得意のフランスもののプログラム。始まりがマ・メール・ロアで、あとベルリオーズのクレオパトラの死と幻想交響曲。

まずラヴェル。繊細な光に満ちた美しさで恍惚。ネゼ=セガンさんは指揮棒を使わずに柔らかく音を作っていきます。わたし、ラヴェルはどちらかというと苦手なんですが、今日はとってもいいと思った。ロンドン・フィルの重心の高さ(コントラバスの低音があまり響いてこない)もこの音楽にプラスの作用をしていたと思います。音楽が終わったとき後ろの席から、ビューティフルの声が。わたしもそう思いました。うっとりとするマ・メール・ロア。

ベルリオーズのクレオパトラの死は多分初めて聴く曲。最初はなんだかベルリオーズらしく大仰で散漫だなって思ってたけど、聴き進んでいくと、ベルリオーズらしくドラマティックで奔放だなって。と、同じことをネガティヴな言葉とポジティブな言葉で書いてみたんだけど、ほんとにそんな感じ。ベルリオーズの語法にちょっと慣れると音楽がとたんに面白くなる。オペラティックで、週日の午後の愛憎たっぷりのテレビ・ドラマの世界観。歌ったアントナッチさんもステキでした。きれいで色気があって。あっ歌うた。歌手の背中を見ながらの位置だったので、ちゃんと評価できるか疑問だけど、たっぷり声も出ていたし感情表現もとっても良かったです。プログラムのバイオグラフィーによると、将来、ロイヤル・オペラでトロイ人を歌う予定だそうなので、これは聴きに行かなくちゃ。来シーズンだといいなぁ。

そして、幻想交響曲。ろうそくの光りがゆらゆらするような点滅する木管楽器で始まる音楽。ヴァイオリンはヴィブラート控え目で、グラマラスにならないのがステキ。そしてラヴェルから引き継いで色彩的な音色感。でも、なんだかちょっと変わってる。なんだろうと思って注意深く聴いてると、強弱の振幅を大きくとってる。特に主部に入る寸前は目一杯。うんうん。ベルリオーズだもんね。破天荒だもん。で、主部にはいるとますます快調というか変。わざとリズムを曖昧にした感じで、シンコペーションがきっちり合ってるのか合ってないのか。音楽が壊れるぎりぎりのところで勝負してくる。これはもうラリってる音楽。縦の線をキチリと合わせてしまうとここまで面白くならない。ってかふらふらしてますよ、音楽。これで、コントラバスがもっと目立ってくれるとどろどろ感が出て良いのだけどな。重心からぐらぐら揺れるともっと面白くなりそう。
第2楽章はおとなしく美しく。場末感満載のオブリガード・コルネットもなし。これは残念。第3楽章も普通。ってわたし変な音楽を期待してない?でもだって。とは言え、良い演奏には違いはないのです。イングリッシュ・ホルンとオーボエの応答はオーボエを上の方のボックス席で吹かせて遠近感を出したり、ライヴはやっぱり楽しいし。ぐいぐい進んで第4楽章もまたわりかし普通。ここはもうちょっと厭々感というか断頭台に向かう引き摺った音楽にして欲しいかなとも思うのですが(でも音楽が輝かしく書かれてしまっているので輝かしい演奏もあるんですが)、最後の最後で小クラリネットが恋人の生首がひょろろんと浮かび上がってくる感じで吹いてくれたので面目躍如。
なんか最初がものすごく良くて、尻すぼみに終わっていくと思った幻想。そうなんです。わたしの求める幻想はもう、ものすごくいかれた音楽。本当に阿片を飲んでへろりんとなってしまった夢。ああそれはわたしの夢で終わるのかと思ったらやってくれましたよ。羽目を外した第5楽章。うん。こうでなきゃ。ネゼ=セガンさんは、えい、こうやったらオーケストラはどう反応するだろうかってオーケストラをいじって楽しんでる。オーケストラもよれよれになりつつ楽しんでる。これがもっと上手なオーケストラだと、指揮者のやりたいことを先回りして、オーケストラが音楽をまとめちゃうんだけど、ロンドン・フィルにはまだそんな力はない。自分たちの力で音楽を丸め込むより、自分のパートを必死で演奏するので手一杯。だからこそ、音楽が生きることがあるんです。だって、もうこの音楽はヤクでラリってはちゃめちゃになったところで成り立ってるんだもの。まとまってるよりばらける寸前でふらふらしていた方が断然面白い。ネゼ=セガンさんの表情もラリってるし。それに、音楽の音色付けは、しっかり繊細で、怒りの日のメロディの後半、トロンボーンとホルンで旋律を繰り返すところなんて柔らかくて教会のコラールのように響くの。この対比が見事。最後は予想外のところから加速して、大盛り上がりのまま音楽は終わりました。いや〜〜面白かったぁ。これ、冷静に録音なんかで聴くと、自分が酔っぱらってたとき撮られたヴィデオを見せられたように白けそうな気がするけど、会場で一緒にラリってるわたしにとっては最強。だから、音楽会って楽しい!

by zerbinetta | 2011-02-16 10:28 | ロンドン・フィルハーモニック

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