ワグナーに愛は語れない さまよえるオランダ人、ロイヤル・オペラ   

29.10.2011 @royal opera house

wagner: der fliegende holländer

anja kampe (senta), eglis silins (the dutchman),
stephen milling (daland), endrik wottrich (erik), etc.

tim albery (dir)
jeffrey tate / roc, oroh


初めて観に行くワグナーの「さまよえるオランダ人」。あらすじを予習してみたら、このオペラ(オペラと言っていい!)、1幕もので2時間半くらいで終わっちゃうんですね。ワグナーにしては短〜〜い。長くてだらだらしたのが嫌なのでこれはいいっ。開演も8時から(普通は7時半)。でも、これが罠で、立ち見だと2時間半ずうっと立ちっぱなしなので辛い。長くても途中で休憩が入るのの方が楽かも。という経験を「ラインの黄金」でしたことあるので、わたしは座って観てましたが。見てたらバルコニーの立ち見のお客さん、今日は空席があったので係の人に誘導されて、バルコニーの一番良い席に座らせてもらえてました。バルコニーの立ち見の人ラッキー。

さて、前置きはこれくらいにして、さくっと感想を言うと、序曲で飽きた〜〜。あの序曲、オーケストラの音楽会で聴くといい曲だけど、オペラの序曲としてはどうよ。なんか充実しすぎてない?メインにサーロイン・ステーキの大盛りを頼んでいるのに、前菜にフィレ・ステーキを食べてる感じ。くどい。と、ワグナー・ファンに顰蹙を買うようなことから書いてるんだけど、序曲の間、ステージのカーテンの後ろで人影がくるくると動いているのが、わたしにはダメで目が回ってしまったんですよ。むちゃ三半規管弱いの。

やっと幕が開くと、地味〜な舞台。灰色系で暗くて、シンプルな舞台装置。予算削減でしょうかねぇ。女の人の服装から、1950年代か60年代くらいに設定してると思うんだけど、なんだかこうちぐはく。正直演出からは、何を問題にしたいのかよく分かりませんでした。
オペラは、ワグナーにしては、とってもオペラらしい。2重唱があったり、わりと普通のオペラっぽいの。このオペラ、ワグナー初の成功作だったんですね。この頃、もっとちゃんとオペラを勉強してれば、もっと普通のオペラ書けたのに。但し、但しですよ但し(偉そうに)、やっぱり、ワグナーの自己陶酔型自分勝手の片鱗はちゃんと感じられるんですね。2重唱は、確かにちゃんと2重唱っぽいけど、なんかふたりが絡んでないというか、銘々勝手に歌ってるように聞こえるし(歌手が悪いのではなくて音楽がそうなってる)、これって、あとの楽劇ではより顕著で、もはや登場人物が全員独白状態ですよね。自分勝手に自分の主張を歌うだけで、ちっとも他者と絡まない。変わらない。「さまよえるオランダ人」でも、それぞれの人物は皆、自分勝手で、自己陶酔的で交わろうとしないんです。ダラントはお金のことしか考えてないし、オランダ人は、自分が救われるために乙女の愛を探している。彼も愛し合おうなんて考えていない。ゼンタは、無償の愛をオランダ人に捧げることを夢見ている不思議ちゃんだけど、それはオランダ人のためではちっともなく、自分の夢の実現のため。この人もセルフィッシュ。唯一普通なのはゼンタを愛するエリックだけかなぁ。報われないけど。ほんと、もう、それぞれ、自分勝手なことばかり考えていて、相手によって自分が変わることもなければ、他者の存在は意識の外。自分だけの世界に住んでる。もうこれって典型的なワグナーの登場人物。オランダ人とゼンタの間には本当の愛は生まれない。だから多分、オランダ人は(ゼンタも)救われることはないんだろう。オペラはそうは進まなくても(正直、この演出では最後、オランダ人とゼンタが救われたのかどうか分からなかった。多分救われてない)、愛ってお互いを認めて新しいふたりの世界を作ることじゃない。相手も変わるし自分も変わる。そんな相互作用が愛にはあるはずなのに、ワグナーには欠けている。ワグナーって自分では愛していると思っても、それは自己愛の投影でしかなくって、本当の意味で人を愛したことがない、というかできなかった人なんだろうと、彼の作品を観てつくづく感じるのです。「さまよえるオランダ人」もそのご多分にもれず。

歌手は良かったんです。オランダ人のシリンスさんは渋かったし、カンペさんもワグナー歌いとして堂々としたものになってました。他の役の方たちもとっても良い。でも、何よりも今日は合唱かな。わたしはわりとずうっと退屈してたんですが、最後の方の酒場のシーンで群衆の合唱が入るところらへんから、音楽がぐいぐいと迫ってきて、ここから最後までは音楽的に圧巻でした。テイトさんの指揮も合唱やオーケストラの良さを引き出していたと思います。短いのでまた観てもいいかなという気にさせられるオペラだけど、次は、オーソドックスな演出か、思いっきりすっ飛んだ頭を挑発するような演出で観てみたいです。

暗い舞台
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シリンスさん、テイトさん(下半身が不自由な方です)、カンペさん
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by zerbinetta | 2011-10-29 08:52 | オペラ | Trackback(2) | Comments(2)

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Commented by かんとく at 2011-11-09 22:41 x
つるびねったさん
TBありがとうございました。あとで、TB返しさせて頂きますね。
登場人物が自分勝手で、人物同士に交わりが無いっていうのは、とっても同意します。モーツアルトのオペラと対極ですね。
Commented by zerbinetta at 2011-11-12 09:42
かんとくさん、
トラックバック貼り逃げしちゃってごめんなさい。このブログが現実に追いついて余裕ができたらまたコメントさせてくださいね。
「さまよえるオランダ人」はかんとくさんと同じような感想でした。最後の30分はとにかく良かったですね。始めはずっと飽きていたけど。
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