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郷愁の想い、アンコールで泣かせるなんて ギルバート、ニューヨーク・フィル   

17.02.2012 @barbican hall

adès: polaris
berlioz: les nuits d'été
stravinsky: symphony in three movements
raval: daphnis et chloé, suite no. 2

joyce didonato (ms)
alan gilbert / nyp


というわけで、今日はアランさんとニューヨーク・フィルハーモニック。チケット持ってたから仕方なくこっちに来ちゃったみたいな酷い書かれ方しちゃって(昨日)、割を食った感じですが、結論を書きましょう、むちゃ感激しました。ロンドンってこうして泣く泣く行く音楽会を選ばなきゃいけないのが辛いですね。評判を聞くと昨日のニューヨーク・フィルを聞き逃したのもとっても残念だったようですし。

3回のニューヨーク・フィルの音楽会のうち、チケットを取ったのは今日だけ。明日のラン・ランさんとのは安いチケットがなかったのよね〜。残念。でも、今日はディドナートさんの歌が聴きたかったのさ。
始まりはアデスさん。会場に着くとわたしの座った席のすぐそばに金管楽器の人がいて、2階席と3階席の左右にチューバを除く金管楽器を配置しているのね。うるさいかなってちょっと心配だったけど、上手な金管楽器ってちっともうるさく聞こえないんですね。がんがん吹きまくる曲ではなかったですが、それでもフォルテはあったのに柔らかくてステキ。そうそう、今は、譜面台の前にモニターが付いてて(最初音を加工とかするコンピューターかなって思っちゃいました)、指揮者が映るんですね。余裕で合わせられちゃう。そういえば、ロイヤル・オペラ・ハウスもステージの歌手から下を向かなくても見えるように客席に何台かモニターが付いていますね。
曲は、バービカン・センターやニューヨーク・フィルハーモニック、などによる委嘱で、MTTとニュー・ワールド・シンフォニーによって去年初演された「ポラリス」。オーケストラの中の人のきらきらと点滅する細かい音符と途中から加わる客席からの金管楽器のコラール風の長い音符の対比が軸となる、きれい系分かりやすい系の音楽。ところが最後の最後になってそれが裏切られて、なんだかきょとんとする中終わったのでした。なんだか作曲家にしてやられたり。でも良い曲でしたよ。アデスさんは分かりやすさと分かりづらさが微妙な案配に混ぜ合わされた曲を書く人だなぁ。イギリス出身の作曲家も最後ステージに呼び出されて拍手を受けてました。

2曲目にベルリオーズの「夏の夜」。これはもう、ディドナートさんの独擅場。素晴らしい声に素晴らしい歌です。ディドナートさんは、ロイヤル・オペラのシンデレラで聴いているのだけど、シンデレラ・ストーリーで王子さまのハートを射止めて豪華に着飾った姿がとっても印象的で、そのままのゴージャスな雰囲気での登場です。彼女、遠目に見ても華がありますね。そういえば彼女、グラミー賞とったばかりだし、メトでの「魔法の島」でも絶賛されてたし、ほんと今、飛ぶ鳥を落とす勢いですね。わたしは彼女のメゾなんだけど軽くて、クリーミーで、つやつやと伸ばしたベシャメル・ソースのような声が大好きで、もううっとり。そして、それに合わせて、ニューヨーク・フィルがなんてステキに柔らかい音で音楽を弾いたのでしょう。ニューヨーク・フィルというと冷たい尖った音というイメジがあったけど、そしてそれが好きだったけど、アランさんが音楽監督になってから、ヨーロッパ風の柔らかな音でも弾けるように変えてきてるんでしょうね。一昨年に聴いたときも、ハイドンでおやと思ったんだけど、今回さらに磨きがかかっていたように思いました。団員の交代も進んでいるようですし、変化途上のニューヨーク・フィルですね。

でも、前からいたメンバーに会えるのは懐かしくて嬉しいです。ホルンのメイヤーズさんはもう引退かしらと思っていたのに、相変わらず大健在で素晴らしい音を聞かせてくれたし、コンサートマスターのだるまさんやステープルさん、アランさんのお母様のタベさん、ヴィオラのトップ3人組、チェロのブレイさんのお顔を見かけて嬉しかったです。新しい団員には、韓国人(中国人)の方が目立ちましたね。中国人は前から多かったけど、韓国人の進出が目立ってきてるのかな。ロンドンでも韓国の若者多く見かけるし。日本はこのまま世界からすぼんで消えていってしまうのでしょうか、心配です。

後半は、ストラヴィンスキーの3楽章の交響曲。これがきびきびして良い演奏でした。今日はオーケストラ的にはこれが一番良かったかな。ニューヨーク・フィルの鋭い音色もやっぱり健在で。アランさんってリズム感がとっても良くってオーケストラを自在にびしびしと決めさせるところに美点があると思うんだけど、こういう曲でその良さが最大限に発揮されると思うんですよね。そういえば、10年前に初めてアランさんを聴いたときもそう思ったのでした。2000年の2月の日記を引用しますね。

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でもね、ほんとにびっくりしたのは若い指揮者さんのアラン・ギルバートさんなの。彼は日本人顔?中国人顔のアメリカ人で、多分アジア人の血が入ってるんだと思う、まだ、20代か30の前半なの。ステージ・ビルを読んでもまだそんなに大きなオーケストラで振ったことはないみたいだし。でも、この人めちゃくちゃすごかったの。ラフマニノフさんのシンフォニック・ダンスを振ったのだけど、これがリズムがすかっと切れてて決めるところが完璧に決まるの。ナショナル・シンフォニーはパーカッション・セクションが上手でリズム感のいいオーケストラだと思うんだけど、こんなにびしっとリズムが決まるのって初めて。もうそれだけで快感なの。ほら、歌舞伎で決めのポーズがぴたっと決まる感覚。かといってリズム感重視のいけいけ音楽じゃなくって、粘るところでは思いっきり粘ってるの。粘ってても、縦の線は完璧に合わせてくるから停滞しないで音楽がきちんと流れるのね。音も濁らないし、そうそう、どんなに強奏しても音が濁らないの。耳がものすごくいいんだと思う。ご本人が弦楽器を勉強してたからか、弦楽器の弾かせ方もうまいのよ。
びしびしと決めまくるのだけど、ただ音を鳴らしてるって感じじゃなくって、自分のやりたいこと、表現したいことをしっかり持ってるから音楽が聞こえてくるの。自分のしたいことをきちんと持ってる人ってすてき。それにそれを実現する技術を身につけてるってなんてすてきなことなんでしょう。もうとにかく快感。彼、これから絶対伸びる指揮者さんだと思う。ちょっと注目。日本でもNHKシンフォニーや東京シンフォニー、札幌シンフォニーに客演してるみたいね。やっぱ、アジアにゆかりのある人なのかしら。
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お終いは「ダフニスとクロエ」の第2組曲。アランさんの演奏は結構抑えた感じで、わたしとしてはもう少し熱っぽく解放して欲しかったのだけど、きれいだし、これはこれで良いのかも知れませんね。全曲が聴きたくなっちゃいました。

そして今日はアンコール。シャブリエの「狂詩曲スペイン」が賑やかに演奏されたのでした。肩の凝らない演奏で、楽しげで思いっきり開放的。なんだか音楽会の最後にぴったりの音楽で、楽しい気分で音楽会を後にできる。
と、思ったらなんともう1曲。ホルンのメイヤーズさん、トランペットのふたり、トロンボーンとチューバの方がいきなり立ち上がって空いたスペースに集まったかと思うとブラス5重奏で陽気なジャズ。これが良かった!ノリのいい音楽で、これぞアメリカンって感じ。彼らの根っこにある音楽。しかもむちゃくちゃ上手くて、メイヤーズさんのホルンには舌を巻くばかり、というか唖然。動き回りながら演奏したのに(特にメイヤーズさんが巨体を揺すってユーモラス)全員が全く完璧な演奏。いや〜〜楽しかったぁ。そして、わたしは何故か大泣き。USに住んでいたときの楽しいことばかりが思い出されて(もちろん美しい部分の想い出だけが抽出されているのは理解しているのだけど、それでも幸せなときでした)、もの凄く郷愁の念に揺り動かされてどうすることもできなかった。血の音楽なんだなぁ。わたし、アメリカ人になりたいのかなあ。

by zerbinetta | 2012-02-17 07:52 | 海外オーケストラ

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