天国的な長さのブラームス「ヴァイオリン協奏曲」 ベル、ユロフスキ、ロンドン・フィル   

22.02.2012 @royal festival hall

mozart: symphony no. 32
brahms: violin concerto
zemlinsky: psalm 23
szymanowski: symphony no. 3

joshua bell (vn)
jeremy ovenden (tn)
vladimir jurowski / lpc, lpo


ジョシュア・ベルさんってわたしにとってかっこいい人ではなくて、美しい人なのです。頭の上から天に引っ張られる感じで、ヴァイオリンを弾くお姿が(おを付けさせてもらいます!)とってもきれい。見目麗しいので目の保養になります。ということはすっかり忘れてて、シマノフスキの交響曲ねらいでチケット取りました。シマノフスキ大好きなんです。でも演奏機会が少ない。何故か今シーズンはロンドン・シンフォニーでもブーレーズさんがヴァイオリン協奏曲と今日と同じ交響曲第3番を演るし、なんと!来シーズンはゲルギーがシマノフスキで特集組むんです。来シーズン、ロンドンにいないことがなんと悔しい!!!

モーツァルトは興味津々。ユロフスキさんは、ハイドンが得意で古典がちゃんと振れる人、というのがわたしの評価だけど、モーツァルトはまだちゃんとは聴いていないので、これはしっかり聴かなくちゃと思ったのです。基本的に古楽的なアプローチを採る人なので、ティンパニとトランペットは昔の、ホルンは普通のホルンでした。
交響曲第32番は、とても短い曲。序曲って言うんですね。ほんとに序曲みたいな曲でした。この小さな音楽だけで、ユロフスキさんのモーツァルトを云々するのは無理だけど、太鼓がぽんぽこ鳴る愉しげな演奏で、ユロフスキさんのモーツァルトへの適性を垣間見たような気がします。

そしてブラームスの協奏曲。正直に告白すると、戸惑いました。ベルさんは、ほんとに美しくて、お姿だけじゃなくて音もとおっっても美しいんですけど、どうしてか、わたしとはウマが合わないんです。大好きなのにとっても大好きなのに、一緒にいると緊張しちゃって口がきけなくなって気まずい雰囲気が漂ってしまう彼。大好きなのに恋人同士にはなれない関係。そんな感じなのです。
今日のブラームスもやはり気まずくておろおろ。確かにソロが入ってぴーんとベルさんの世界にオーケストラが引き込まれたのはさすがですが、何かもやもやと霧の中にいるよう。確かに道を失ったのです。今わたしがどこにいるのか迷子になったのです。ブラームスの音楽って、決して古典派の音楽ではないけれども、がっしりと構成された形式美のある音楽。丹念な設計図の元に音楽が組み立てられていて、どこにいても、今ここだなって分かる感じ。だけれども、ベルさんのは、時間が引き延ばされている(決してゆっくりと演奏したという意味ではありません。時間の流れが緩やかになった、もしくはよく分からなくなった感じです)のか、今どこにいるのか、どこを迷っているのか曖昧になっているのです。音楽を外枠から作らないで、部分部分を丹念に弾き込むことで音楽を作っているのかな。それぞれのときはうっとりするほど美しいんですけど、つながりが失われてる。ふうっとそれに気がついて、ああ、今この瞬間の音楽に身を委ねればいいんだなって思ったとき、永遠に続くかのような時間が愛しくなってきて。
最近音楽の形式的な美しさに目覚めてきたわたしには、ちょっと期待をはぐらかされた印象です。第3楽章なんかは活気があって良かったんですけど。

休憩のあとはツェムリンスキーの詩篇23篇といよいよシマノフスキ。両曲とも合唱が入ります。合唱は、最近ずうっと好調なロンドン・フィルハーモニック・コーラス。アマチュアの団体ですがとっても上手くて、今日もステキな合唱を聴かせてくれました。今日のような大きなロマンティックな音楽が一番得意みたい。演奏時間が10分くらいなのにマーラーとか初期のシェーンベルクみたいな肥大した音楽。世紀末テイスト。何が世紀末テイストかと言われると困っちゃうんだけど、調性のしっかりした19世紀にも無調になった20世紀にもどちらにも行けず、狭間でふらふらしてる感じかな。伸びやかでほのぼのしている牧歌的な音楽ねって、ふと記憶をたどったら、そうだった、詩篇23篇って憩いのみぎわの詩だった。詩篇の中でもっとも平安に満ちて美しい詩。友達の名前が総登場するので大好きな詩だったのでした。ユロフスキさんのオーケストラも暖かく歌の世界を包みこんでステキでした。短さを感じさせない壮大な演奏でした。

一方のシマノフスキの交響曲第3番「夜の歌」は冷たい寒色系の音楽。この音楽って、実はラジオの解説を聴いて初めて気がついたんですけど(って遅すぎ!)、トリスタンとイゾルデをふんだんに引用してるんですね。そしてそれに相応して、ユロフスキさんはもの凄くねちっこくこの曲を演奏しました。大オーケストラと大合唱団による遠大な官能のうねり。わたし、この曲さらっときらきらと流れるシマノフスキ・テイストの音楽だと思っていたんだけど、水飴のようにねっとりとしてて、エロティックな音楽だったと大発見。ロンドン・フィルの本来の寒色系の音色もぴたりと合って素晴らしい名演となりました。テナーのオヴェンデンさんも、きらきらテナーではないけれども、声の感じがこの曲に合っていて文句なし。どっぷりと夜の艶めかしい世界に浸って、でも何か秘匿してしまいたい性の本能が身体の中にたっぷりと湧き上がってきて、なんだかこのまま寝付けなくなってしまいました。まさに、「君よ、寝るな!」です。
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by zerbinetta | 2012-02-22 07:57 | ロンドン・フィルハーモニック

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