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ベートーヴェンと数学の問題 サロネン、フィルハーモニア   

15.03.2012 @royal festival hall

beethoven symphony no. 1
unsuk chin: violin concerto
beethoven symphony no. 3

viviana hagner (vn)
esa-pekka salonen / po


サロネンさんとフィルハーモニアのベートーヴェン。第3弾。交響曲第1番と第3番です。確か来シーズンのシーズン・オープナーが第9番なので、奇数番をずっと採り上げてるのですね。偶数番はいつになるのでしょう。交響曲を挟んで、先ほどのプレ音楽会のプレゼンター、ウンスク・チンさんのヴァイオリン協奏曲が演奏されます。

まずは、ベートーヴェンの交響曲第1番。サロネンさんのベートーヴェンは奇をてらわずきわめてオーソドックス。でも溌剌としていて若々しい。その特徴が存分に生かされた演奏。ベートーヴェンの音楽とサロネンさんの音楽の方向性が一致してとってもステキなマリアージュ。軽快にスキップしたくなるような音楽。今日は隣に座った女の子(大学生くらい?)が、演奏中ずうっとノートを広げて数学の問題(積分方程式?)を解いてたんだけど、颯爽としたサロネンさんのベートーヴェン、さぞかしすらすらと数式が解けたでしょう。そこはこうするの、ねっ、とかって隣から教えてあげてみたかったけど、エセ理系のわたしにはちんぷんかんぷん。サロネンさんの音楽もわたしの頭脳の活性化には無力でした。でも、2曲目のウンスク・チンさんの音楽になったとき、彼女の手は止まりました。

ウンスクさんのヴァイオリン協奏曲は、数学の問題を解くには、ふさわしくないかも知れないけど、わりと聴きやすい音楽だけど、力のある作品で、とってもステキでした。近年のヴァイオリン協奏曲の中でも傑作のひとつだと思いました。ウィキペディアによると、ウンスクさんは昔は西洋音楽に対して敵意むき出しの作品を書いていたそうですけど、この曲は柔らかくこなれていて、「外国」もしくは異質なものを昇華した音楽になっていたように思えます。演奏も、初演者でもあるハグナーさんのヴァイオリンは音楽を隅々まで知り尽くしたような演奏だったし、サロネンさんとフィルハーモニアもさすがと言わざるを得ません。ウンスクさんの作品を聴けたのが、今日の音楽会のひとつの成果です。ウンスクさんもご家族で聴いてらっしゃったのですが、ウンスクさん寝ていたような。。。

休憩のあとはベートーヴェンの交響曲第3番。これまた、数学の問題がすらすらと解けそうな颯爽とした演奏だったんですけど、隣の女の子は帰ってこず。ウンスクさんで懲りて、帰ってしまったのかな。もったいない。数学、さくさくと進んだに違いないのに。
サロネンさんの演奏は、若い溌剌とした演奏なんだけど(サロネンさんの永遠の若者度ってどうよ)、それだけではなく、実に堂々として成熟した音楽。若さと成熟のどちらも持っていて、ただのフレッシュ感とは違う、しっかりしたボディのクレマンみたいな味わい。炭酸の泡のようにすうっと引くけど、あとに残るふくよかな香り。
オーケストラもサロネンさんのさりげないドライヴに応えてとっても良い音。アクセントがとてもきれいに強調されていて、ナチュラル・トランペット、硬いばちを使ったティンパニの音色がスパイスに効いてる。スミスさんのティンパニは、ベートーヴェン・シリーズではわりと控え目ですが、第2楽章とかソロで決めるところは心臓をわしづかみにするようにぴしっと決めて、わたし的には大喜び。最後のお客さんの拍手もスミスさんには多かったような。
第2楽章は予想外にゆっくりと、真の葬送行進曲のように演奏されたのはびっくり。活発のまま行くのかなって思っていたので、虚を突かれました。でも決して重苦しい音楽ではなくって、深い悲しみが心に満たされてくる感じ。サロネンさんはオーケストラに極限の弱音を要求していましたが、ちょっと音が枯れてしまったのがもったいない。これがベルリンフィルとかだったら、力を保ったまま最弱音で弾けるんだけどな。
山から吹き下ろした風が木々の葉をさあっと撫でて、音を立てるごとく細かく無窮動に走り回るスケルツォ。するりとかっこよく始められたフィナーレ。どこを切っても音楽が生きていて、とってもステキなベートーヴェンでした。わたしもなんだか頭が良くなったみたい。積分方程式は一生解けないけどね。

by zerbinetta | 2012-03-15 20:26 | フィルハーモニア

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