ショパンは麻薬 アンスネス リサイタル   

29.03.2012 @queen elisabeth hall

haydn: piano sonata in c minor, Hob.XVI/20
bartók: suite for piano, Op.14
debussy: images, set 1
chopin: 3 waltz, op70; waltz, op42; ballade no. 3, op47; nocturne, op62-1; ballade no. 1, op23

leif ove andsnes (pf)


アンスネスさんは、初めて聴いてひと耳惚れして以来、ずううっと大好きなピアニストです。そのときはCDまで買っちゃった。そういうことを滅多にしない人なのでとっても特別なのです(ひと耳惚れしてCDを買ったことのあるのは、他にヒラリー、アリーナ、ニキ、ユジャ、ネゼ=セガンさん、デセイさん、、、あれ?結構いるじゃない)。

アンスネスさん、渋くかっこいいんですよ。今日はスーツに黒っぽいネクタイで、ホテルのフロントの人みたい。そしてハイドンのソナタに電光石火打ちのめされる。予想外。ハイドンってこんなステキなピアノ・ソナタ書いてるのね。短調の重さのある作品だけど、音が輝いていて、決してちゃらちゃらと明るくないのだけど、本物の光りが差し込んでくる。アンスネスさんの音色は、透明なクリスタルの輝き。それでいて派手なところが一切なくて、光りが水や氷やガラス玉みたいな透明なものに当たって、反射したり弾けたりするのを見ているよう。アンスネスさん自身も、自分をひけらかすことは一切なくて、音楽に誠実。音楽が、直接わたしに語りかけ、わたしの裡で響いています。もうこれを聴いただけで、今日ここにいて良かった。

バルトークの小品、ピアノのための「組曲」は、かわいらしい曲。たかたかとピアノの鍵盤が鳴って、音がピアノの上をころころ走り回るよう。ドビュッシーの「映像第1集」では、落ち着いた光りに溢れた演奏で、音のパレットの豊かさに、美術館の回廊を隅から隅まで観て回ったような充実感、と心地良い疲労。あまり関連のなさそうな曲を並べただけに見えたプログラムも、こうして聴いていくと、なんだか個人コレクションのステキな美術館に行ったみたい。

休憩のあとは、ショパン。わたしはピアノを弾かないので、ピアノの音楽はずいぶん最近になって聴くようになりました。そして、まだまだ初心者です。ショパンは一通り聴いたけれども、まだ曲と名前が一致していません。ワルツはワルツのリズムだから分かるんですけど、それが第何番だとかと言われると困ってしまいます。でも、ショパンには何故か幼い頃の懐かしさを感じてしまうんですね。特に良い演奏だと。
わたしの記憶は、理想の記憶です。幼いわたしは窓の外の緑の木々を揺らす風と共に聞こえてくるピアノの音に耳を傾けている。それはモーツァルトであったりショパンであったり。わたしはピアノは弾けないはずなのにいつかその記憶の中でわたしがピアノを弾いている。今度は遠くに山が見える学校の音楽室だったり。
ショパンの音の並びはそんな幻覚の記憶を呼び覚ます麻薬です。そして、アンスネスさんの演奏は、それはもう強烈な麻薬でした。音楽を現実の音として聴くことができない。もうそれは音ですらなくて、心の響き。本物の麻薬を飲んだら、こんなに幸せな気持ちになるのでしょうか。でも、わたしはそれはいらない。アンスネスさんのショパン以上にステキな麻薬なんてないから。この幸福感はいつまでも穏やかに続くんですね。

アンコールは、ショパンの「ワルツ」と、ラフマニノフの「音の絵」、グラナドスの「スパニッシュ・ダンス」でした。幻想の中で万華鏡のようなカラフルな光りの煌めきが目の内側からわき出してきて。。。
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by zerbinetta | 2012-03-29 08:01 | 室内楽・リサイタル

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