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エロスとエクスタシー テツラフ、エトヴィシュ、ロンドン交響楽団   

29.04.2012 @barbican hall

debussy: three nocturnes
szymanowski: violin concerto no. 1
scriabin: the poem of ecstasy

christian tetzlaff (vn)
peter eötvös / ladies of lsc, lso


シマノフスキが好きなんです(キッパリ)。でも、シマノフスキって演奏される機会が少ないので、貴重な機会を逃さざるべく、とっても楽しみにしてチケットを暖めていました。そして、今日はブーレーズさんが振る予定だったんですけど、残念ながらキャンセル。どうやら目がお悪いらしくもう目が見えないんだそうです。これから指揮者としてステージに立つことがあるのか、心配です。現代音楽の戦士のイメジがある彼ももう高齢ですからね。お体大事になさって、つつがなく余生を送って欲しいです。

で、ブーレーズさんの代役は、アンサンブル・インテル・コンテンポランの指揮者もしてらした作曲家でもあるエトヴィシュさん。前にロンドン・シンフォニーを振るのを聴いて、全体的な構築はともかく、局所的に微に入り細を穿ち点描的に音楽を作る人だなって感想を持ちました。それが今日の演奏にどう生かされるのか、殺しちゃうのか、シマノフスキなら多分大丈夫かなと、半分不安、半分期待。

それがね〜〜半分不安の予想に反して、意外や意外、良かったの。エトヴィシュさん、指揮者としても才能ありそう。女声合唱がちょこっと入る「ノクチュルヌ」は、試し聴きみたいな感覚で聴いてたんだけど、これはちゃんと聴かないとって引き込まれました。ロンドン・シンフォニーの暖かみのある柔らかな音も地中海側のドビュッシーという感じでとても気持ちよかったです。そうそう、今日はリーダーにニコリッチさん。もしかしてこの人が弾くのは初めて見たかも。ロンドン・シンフォニーの正式のリーダーのひとりなんですけどね(ロンドン・シンフォニーにリーダーはふたり)。でも、さすがヴェテランのリーダー。なんだかオーケストラが締まります。

いよいよシマノフスキ。テツラフさんのヴァイオリンで、協奏曲第1番。この曲を聴くのは2回目。大好きな音楽です。テツラフさんは昨日聴いたアリーナの師匠。アリーナは活動の拠点を半分ベルリンに移してテツラフさんに習ってるんですね。彼のヴァイオリンを聴いているとアリーナが師事するの分かります。指向性が似てるんですもの。テツラフさんは風貌が学者タイプで(今日はメガネをかけていなかったけど)、繊細な神経質な演奏をするかと思いきや結構漢。繊細な中に熱い感情を持った演奏をする人です。
なので、暖かみのある音色のロンドン・シンフォニーと漢のテツラフさんのシマノフスキは、結構情熱的。わたしが今まで聴いてきた演奏は、冷たく鋭利なエッジの演奏だったので、ちょっと印象変わりました。でも、テツラフさんのフラジオレットの高音は研ぎ澄まされたガラスのようにきれいなので、シマノフスキらしさもしっかりあって、でも、情熱的な音楽にはエロスも感じて、冷たい月の光の夜、激しく愛を貪り合う感じ。ふたつの生命が混じり合いひとつになろうとするひとつの細胞の時代から途絶えることなく行われてきた命の荘厳な営み。
テツラフさんのアンコールは、バルトークの無伴奏ソナタから。これもまた素晴らしい演奏でした。それにしてもテツラフさん、今脂がのりにのってますね。どこかで聴いたことのあるような気もするも、覚えていなかったわたし。隣の人たちがひそっとバルトークのソナタって言ってたので分かったのです。あとで調べたら、わたし、アリーナの演奏で聴いていたんですね、この曲。どおりで聴いたことがあると思ったわけだ。すっかり忘れてたけど。
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最後のスクリャービンの交響曲はずばりエクスタシー。エトヴィシュさんの演奏は、オーケストラをとても良く鳴らすし、オーケストラもそれに応えてとてもいい音で弾いてるんですけど、エクスタシーにしてはちょっとあっさりしてるかな。ちょっと健康的。多分ブーレーズさんが振っても同じようになるような気もするけど。本当のところは曲が短すぎて(20分ほど)、エクスタシーに達するにはちょっとせっかちかな。もっとじっくり焦らしつつ(例えばトリスタンのように)、導いて欲しいです。むしろ、シマノフスキの協奏曲の方にエクスタシーを感じました。

今日の音楽会、ロンドンの音楽会ブログ仲間が大挙集ったみたいですね。ロンドンは音楽会が多くて、普段分散するのに、珍しいです。わたしは皆さんにお目にかかったことないんですが、音楽談義に花を咲かせていたのではないかしら。

今日、この音楽会の前に、ギルドホール音楽演劇学校の学生さんによるハープを中心にした室内楽の演奏がありました。ドビュッシーの「神聖な舞曲と世俗な舞曲」が聴きたくて聴いていたんですけど、プロの卵とはいえアマチュア。評論は控えますね。でも、プロへの道は険しいって感じました。それだけ、プロの音楽家って素晴らしいんですね。

by zerbinetta | 2012-04-29 19:16 | ロンドン交響楽団

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