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タカシのような演奏??なにそれ? サロネン、フィルハーモニア「復活」   

28.06.2012 @royal festival hall

joseph phibbs: rivers to the sea
mahler: symphony no. 2

kate royal (sp), monica groop (ms)
esa-pekka salonen / philharmonia chorus, po

この音楽会を聴いたあと、ツイッターに「タカシのような演奏」って謎のツイートを思わずしたんですけど、いよいよ謎解き。
今日の音楽会はとっても楽しみにしていたんです。だって、サロネンさんが「復活」。サロネンさんって確かマーラーの交響曲第3番を代理で振って鮮烈デビュウ。でも、なんか、「巨人」とか「復活」(敢えて通称名で呼んでみました)よりも後期の交響曲の方が似合うような気がして、ベタな「復活」をどう演奏するか、という興味がありました。それと、2010/11年のマーラー記念年のシーズンで唯一聴いてないのが何故かこの「復活」だったんです。だから遅ればせながら聴けて嬉しい(あっロンドンでは、その前の年までに「復活」は2回聴いてます)。

音楽会は、交響曲第2番、1曲だけではなくて、その前に、フィブスさんの「川から海へ」という作品が演奏されました。同じ曲目でイギリスをツアーで回っているので、今日が初演ではないけれども、初演は数日前なのでほぼ初演。もちろんロンドンでは初演です。この曲、何だかとっても不思議な曲で、聴きやすいとってもきれいな音楽なんだけど、頭の中から跡形もなくすうっと抜けて、全く覚えていないのです。BBCラジオ3のオンデマンド放送でも何回か聴いたけどやっぱりすうっと頭の中を抜けていって、何だか幽霊みたい。音楽会で演ったことすら覚えていないような感じは、気配消しすぎ。聴いてるときは、いいなぁとも思うのに、跡形もなく消え去るなんて初めての体験です。

満を持して、マーラーの交響曲第2番。サロネンのことだから絶対スタイリッシュな演奏ってワクワクしていたら思った通りのスタイリッシュさ。颯爽とした弦楽器のトレモロで始まって、たたみかけるような、でも決して粗暴になりすぎないチェロとコントラバスの速い動き。重くならずにさくさくと進む、かっこいいと形容するのがふさわしいような葬送行進曲。力任せに感情を爆発させないんだけれども、音楽には過不足なく気持ちが込められていて、つーんと心に突き刺さる音たち。低音控え目で重くならないと思っていたらここぞというときにコントラバスを効かせてかっこよさ抜群。細かいところまでサロネンさんのこだわりが聞こえる演奏。第2主題では思いっきりテンポを落として、音楽の雄大度200%アップ。
実は最近、「復活」のCDを買おうと企んでいたのです。一昨年聴いて感激したユロフスキさんとロンドン・フィルのライヴ。と思ってたら最近、テンシュテットとロンドン・フィルのライヴのCDも出てそれがものすごく評判がいいので迷い始めたんです。そして、今日のサロネンさんのも録音されているのでCDになる可能性があるのだけど、この演奏もCDで聴いたらいいなって思えるのです。ユロフスキさんの演奏みたく、勢いに任せた部分がないので、CDで何回も聴くのにはとてもステキな演奏になってると思うんです。でも。

そう、でも。ちょっと整いすぎてると感じてしまったんですね。マーラーがまだ30代の駆け出しの頃の作品は、破天荒な綻びも作品の中にあってそれが魅力にもなってると思うんです。サロネンさんの演奏は、そんなほころびが見事に修繕されてしまっている。それは音楽的にはより良くなってはいるのだけど、無軌道な熱い思いが背後に押しやられてしまう物足りなさも感じるのです。第1楽章の静かな部分なんてあまりにも静寂で何かを諦観したようで、この雰囲気は、なんだろうともやもやしながら聴いていて、ふ!っと交響曲第9番を思い出して、あの最終楽章と精神的な雰囲気が似てるなって気づいたのです。でも、それはちょっとわたし的にはちがうかな、と。ライヴで聴くなら、熱い感情の奔流があってもいい。

タカシのような演奏。なにそれ?ですよね。タカシって誰?あの酔っぱらいのタカシくん?いつも宿題忘れてたタカシ?それとも幼なじみのかっこいいタカシにいちゃん?いえいえ、タカシといったら安藤崇です。あはは。なおさら分からない。池袋を憧れの街にしたIWGPのタカシです(あっ石田衣良さんの小説)。めちゃクールでかっこよくて、心が熱くなるほど反対に、氷のように冷たくなる男。サロネンさんの演奏は、熱い感情がこもっていながら、音は正反対に冷たくクールになるんです。あまりにも完璧で隙のない(ミスがないという意味ではないですよ)演奏です。でも、わたしはタカシよりマコトの方が好き。頭がいいのに熱くなると前後の見境が付かなくなって突っ走っちゃうタイプ。それがまさに、ユロフスキさんの演奏でした。でも、どちらも本当に凄い演奏で、多分、ユロフスキさんが聴きたい日もあればサロネンさんを聴きたくなる日もある。音楽ってそういうものですよね。ベストCDとか言うけど、ベストがひとつしかないなんて、それはちょっと変だしもったいない。

第1楽章が終わったあとは、楽譜どおり、長い間。サロネンさんは指揮台の脇の椅子に座って休憩。その間に合唱と独唱が粛々と入ってきました(独唱者が入ってきたとき少し拍手が起こったけど)。
第2楽章はすうっとほっとするような風のような、サロネンさんらしい爽やかな演奏。サロネンさん、実はこういう音楽が一番向いているような気がします。とても丁寧で、さらりとした歌があって、あまり歌いすぎずかといって愛想がなくならない絶妙なバランス。野暮ったさのない、実に洗練された夏の別荘地の高原のような憂いのない音楽。天上の世界でしょうか。
第3楽章も同じ路線。皮肉やカリカスチュアよりも素直な愉しみが表に出ている感じ。魚に説教する聖アントニウスのお話も粋な笑い話のようにからりと明るい。さらさらと澄んだ水が流れるように細かな音が流れていく。トランペットのソロもきれいで光が満ちるよう。

グループさんの静かな歌い出しで始まった第4楽章。深々としたアルトの声で、うん、なかなか曲に合ってるって思ったんですが、ときどき音の移り変わりに溜めがなくて階段を早足で下りるように聞こえたのでそれがちょっとだけ残念かな。サロネンさんはもう少しゆっくりと演奏したいように思えたので。
唐突にというより、ほんの少し間を置いて始まった第5楽章。もう壮大な音のドラマが始まります。ステージ裏のホルンも4人。プリンシパルのブラックさんも裏に回って贅沢な布陣。音外しちゃいましたけど。でも、ステージ裏のホルンの音はとっても良かったです。サロネンさんは、緩急自在、丁寧にオーケストラを煽って黙示録の世界を現前に出現させます。暴れるところは暴れるのですが、それはもうクールにかっこよく暴れるのですね。音楽の勢いに任せるというところはなく、隅々まで見事にコントロールされているのは第1楽章と同じ。そして静寂の表出の素晴らしさ。霧が晴れたような天上の世界が広がって静かに合唱が入ってくるところは、正直、どんな演奏を聴いても感動してしまうんだけど、サロネンさんの演奏はその中でも出色のものでした。フィルハーモニア・コーラスの合唱もとっても上手くて、特にバスが豊かに声が出ていて良かったです。もうここからは、引いては押す波のように、感動がうねりまくりながら、最後の坂を登っていくのだけど、その焦らすような盛り上げ方が、とってもツボ。ロイヤルさんのソプラノも堂々として良かったし(もっと線の細い人かと思ってた)、本当は、オルガンがもっと大音量で鳴り響いて欲しかったけど、最後メーターが振り切れるように終わった音楽は、やっぱりスタイリッシュでかっこいい。

盛り上がってお客さんは熱くなってたけど、でもわたしにはやっぱり冷たさも同時に感じてしまったのです。だからこそタカシのようがピタリと言葉に浮かんだんです。30代のマーラーはもっと不器用な無骨な音楽を書いたんだという思いがどうしても頭に残ってしまって。それを象徴していたのが、最後の方でオーケストラと合唱が一緒になって大音量で盛り上がるところ、独唱は音楽から降りてしまってお休みしてたことです。この部分、マーラーは独唱者にも合唱と同じパートを歌わせるように楽譜に書いています。確かに、合唱と同じことを歌うので独唱は聞こえなくなるのだけど。。。でも、マーラーの意図は、全員が高らかに復活を歌うことではなかったかと思うんです。前の部分では、独唱が合唱から立ち現れたり、合唱に吸いこまれていくような書き方をしているので、マーラーは最後独唱は個別に聞こえないことは分かっていたはずです。でも、それでも独唱にも歌わせている。というところに、音楽を越えた意味があるのではないかと思うのです。サロネンさんの演奏は、音楽的には全く傷を付けたものではありません(聞こえませんから)。でも、それが、クールすぎる物足りなさを象徴していたように思えるのです。それでも、音だけ聴いたら間違いなく第1級の名演でした。

by zerbinetta | 2012-06-28 23:57 | フィルハーモニア

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