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深化したアリーナに驚愕 イブラギモヴァ バッハ無伴奏   

24.10.2012 @wigmore hall

js bach: sonata no. 1, partita no. 1, sonata no. 2, partita no. 2

alina ibragimova (vn)


アリーナのウィグモア・ホールでの音楽会。コセヴィッチさんとのブラームスのソナタ全曲。彼女のブラームスにはめっちゃ期待していたわたしは、もう胸トキメキまくりだったんだけど、がびーん、チケットが一般販売されたときにはソールド・アウト。アリーナのリサイタル、ウィグモア・ホールでは最もチケットが取りづらい音楽会のひとつなんです。完全に諦めていながら、こまめにウィグモア・ホールのサイトを見ていたら、リターン・チケットが出たではないですかっ!有無を言わさず、瞬間的にポチッ。で、詳細を見てみるとバッハの無伴奏とある。あれれ?と思いつつ説明を読んだら、コセヴィッチさんがキャンセルになってアリーナひとりでの音楽会になったそう。おやと思ってアリーナのウェブ・サイトを見ると、インドから始まるツアー全てがアリーナの単独音楽会になってる。そうか、曲目変更でリターンが出たのね。ラッキー!アリーナのブラームスがどうしても聴きたくて、ノーリッジでの音楽会のチケットも買ってたんだけど、こちらももちろんバッハになったので、ウィグモア・ホールのチケットも取れたので、風邪がちっとも良くならなくて満身創痍のわたしは、ノーリッジの方は泣く泣くキャンセル。さすがに片道3時間もかけて風邪ひきの中出かけるのは辛いものね。ウィグモアが取れて良かった♬

アリーナのバッハ無伴奏、前にも聴いたことがあったので、実はほんとはブラームスが良かったななんて、バッハになった故にチケットを取れたわたしが何言ってんだって感じですけど、でも、聴き始めたとたんなんて幸せなんだって。そして、彼女のCDもよく聴いているんですけど、全く違った演奏。深化してる。激しく深化してる。
実は彼女のバッハの深化は、2年前に垣間見ている、いえ垣間聴いてるのです。ただそのときは、ベリオやバルトークの無伴奏とのプログラムで、バッハはシャコンヌだけだったので、プログラム全体からの俯瞰でそういう演奏になったのかなと思ったんです。でも、今日聴いてそうではないことが分かりました。

プログラムは、この間の師のテツラフさんが、2番と3番のソナタとパルティータだったのに対して、1番と2番のソナタとパルティータ。師弟対決はちょびっと曲をずらしてなされました。有名な第3番の方ではなくて第1番の方を採り上げるのがアリーナらしい。

アリーナのバッハは、CDを録音した頃は、気負いのない自然体のさらさらと清々しい気持ちの良い演奏でした。等身大のすてきなバッハ。でも今日の演奏は、もっと大きな深いバッハ。音楽から、深遠な世界が溢れてくるようで、ウィグモア・ホールが宇宙に開いてくる感じ。でもね、圧倒されるような畏怖を感じるような重しのある音楽ではなくて、アリーナの特徴の自然体の気持ちの良さは健在。アリーナは決して音楽を偉大に表現しようとしているのではないと思うんです。そんな外面的な表現意欲は皆無で、アリーナの成長が、自然に必然的に、音楽の大きさをもたらしていると感じます。等身大が大きくなった。だから、引き込まれるように音楽のうねりを感じるのだけど、それは強風ではなくて、やはりさらさらと心をくすぐるのです。それは、以前のバッハが窓いっぱいに見える、風にそよぐ木々の葉っぱだったのに対して、今日のは世界一面の樹々の葉っぱ。もしくは、宇宙(そら)にまたたく星々の光り。小声で、でも明瞭に囁くような声が耳から聞こえてくるバッハから、静かな声が直接体にしみ通ってきて心を揺らしてくるバッハ。

そして、ライヴ。アリーナは失敗を恐れず果敢に攻めてきます。速いところは眩い光りを持って、ゆっくりとしたところではかみしめるように神経を研ぎ澄ませて。音楽の陰に隠れてしまうけど、なんという技術の冴え。ドキリとするような音楽なのに、音に一点の曇りもなく、完璧に弾きこなしてしまう凄まじさ。ノン・ヴィブラートなのにしっとりとして伸びやかな音。細かいパッセージの正確な燦めき。複雑に絡み合う旋律線がクリアに聞こえて、1艇のヴァイオリンで織りなされる小宇宙。アリーナの体が仄かに火照って、音楽が熱を帯びてくる。絶好調のアリーナの会心の演奏。すごすぎ。ドキドキしながら聴き始めたアンダンテは完璧だったし、シャコンヌの充実ぶりは息をのむばかり。こんな演奏に出会えてわたしはなんて幸せ者だろう。音楽を聴いた後のわたしは、きっと新しくされていて、以前のわたしではない。
アンコールには、パルティータ第3番からガボット。待ってました!って感じ。そんな客席に応えてつむじ風のような、さっと吹き抜けるようなテンポの速い快演。アリーナのしてやったりの笑顔。お客さん大拍手。最高の音楽会でした。

音楽会の後はサイン会。家にあったCDはすでに引っ越しの段ボール箱の中なので、プログラムにサインしてもらおうかとも思ったのだけど、アマゾンがちょうど品切れでまだ買ってなかった、最新のメンデルスゾーンの協奏曲をウィグモア・ホールの売店で買って、サインしてもらいました。「今日のバッハとっても良かったです。前のCDのも良かったけど、今日のは全然違った。ほんとに素晴らしい」って言ったら、にやりとして「でしょう」って。もう、金メダルを取ったアスリートみたいな笑み。
CDって難しいですね。演奏が固定されちゃってそれが彼女(彼)の演奏だってなっちゃう。音楽家って日々深化してるのに。特にアリーナみたいな若い音楽家は。今のアリーナはCDのアリーナとは全然違うし、是非またいつか、バッハの無伴奏を録音してほしい。ほんとは、わたしがアリーナの音楽会を追っかけしなきゃなんですけどね〜。うん、いつか、必ず、またアリーナのバッハ、聴いてやる。10年後、20年後、そして30年後。人生の楽しみっ♡
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by zerbinetta | 2012-10-24 22:51 | 室内楽・リサイタル

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