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温かなぬくもりのホールの音楽 鈴木雅明、東京シティフィル モーツァルト、マーラー   

2013年1月18日 @東京オペラシティ コンサートホール

ヨーゼフ・マルティン・クラウス:交響曲 VB146
モーツァルト:交響曲第25番
マーラー:交響曲第4番

森麻季(ソプラノ)
鈴木雅明/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団


初めて行くオペラシティ。日本で音楽会聴くのも超久しぶり。ワクワクしないわけありません。同じビルにあるICCでやってる「アノニマス・ライフ」展も観に行って充実。スプツニ子!さんの「菜の花ヒール」観たかったの〜。わたしにはちょっと大きすぎるヒールでした。でも菜の花のアイディアはステキだな〜。

音楽会は東京シティ・フィル。初めて聴くオーケストラです。指揮の鈴木雅昭さんも初めて聴く指揮者。バッハ・コレギウム・ジャパンを結成して海外でもめちゃくちゃ評価の高いバッハのカンタータ全曲を録音している指揮者さん。バッハとか専門と思ったら今日はマーラーも指揮するのでびっくり(とはいえ、古楽の演奏家が古楽専門って訳ではないですものね)。

まず、ホールの印象。木組のぬくもりのある高い天井の美しいホールは、見た目もとってもステキで、音もとってもまろやか。なんか高原の避暑地の教会に来たみたい。ロンドンだったら規模は違うけどキングス・プレイスのホール1が近いと思うけど、こんな贅沢なホールを持ってる東京の人は羨ましい。ひとつ欠点を言えば(これを難癖をつけるというのですね)、音がとても良く響きすぎてお風呂で歌うように、オーケストラが上手く聞こえすぎることかな。あれ、これ欠点とは言えないかぁ。

東京シティ・フィルは舞台上で音出ししていた奏者もいったん袖に引っ込んで、みんなで出てくるスタイル。拍手しようとしたら、お客さんは粛々と出を待っていてちょっとどぎまぎ。拍手しないのがルールなのかなぁと思いつつ、モヤッと気持ちをもてあましてしまいました。なんかとんでもない宗教的な儀式が始まるみたいでびっくりしたよ(パルジファルなんかはこんな雰囲気だものね)。

最初のクラウスは名前も初めて聞く作曲家。モーツァルトと同い年で、スウェーデンのモーツァルトと呼ばれた人なんだって。単一楽章で、フーガに特徴のある音楽は、ホールが響きすぎるせいか、オーケストラの音が豊かなせいか、わたしにはちょっと曖昧に濁ったように聞こえて残念でした。現代楽器では丸くなっちゃうので音を短めに切ればいいのかなと思いました。ピリオド楽器や奏法をすれば良いとは思わないけど、音の作り方に工夫ができるようになればもっといいのにって外野席から勝手に思いました。

モーツァルトのト短調の交響曲は、マッシヴに聞こえてくる弦楽器の速いパッセージの音の掛け合いが、バロックのコンチェルトグロッソみたいに響いてとっても爽快でした。これはいいなぁ。決して重くならない青春の疾風怒濤。小林秀雄が疾走する悲しみと書いたのはこの曲じゃないけど、でもその言葉がぴたりとはまる(元々この言葉を作ったのは小林秀雄じゃないし、そして、元になる言葉を書いたアンリ・ゲオンと小林秀雄がこの言葉を使った曲はふたりで違ってる)。だから、モーツァルトは悲しく疾走するんだ。あなたが思ったその曲で。そう言えば、ツイッターでは、切れ味の良い包丁でキャベツの千切りを切るような爽快感、と書いたけど、わたしにとってはキャベツを切る悲しみ?なんて馬鹿なことを言ってないで、疾走して涙が置いてけぼりを食らうような晴れ上がった悲しみなのよね、この曲も。

休憩の後はマーラーの交響曲第4番。この曲大好きなので楽しみにしてました。それにバッハで名をあげた鈴木さんがどんな音楽を作るのか。無伴奏ヴァイオリン曲みたいな点で対位法を作るので鈴木さんの音楽にますます興味がつのったのです。
鈴木さんはゆっくり目のテンポでとても丁寧に音楽を作っていきます。モーツァルトを聴いてるときからもわもわとオーケストラの上手さに満たされてきたんですが、このマーラーもとっても良い音で弾いていきます。鈴木さんの棒にきちんと反応してひとつの楽器のように音を紡ぐ。美しさ、天国的な平安を全面に押し出した演奏。軋んだり反発したりする音たちをひとつの整った音の絵にまとめる演奏だったのだけど、わたし的にはタイプの演奏ではなかったんですけど(わたしは、軋む音たちからなる対位法を強調した演奏が好きです)、でも、音楽の豊かさ、美しさはこの演奏をとてもステキなものにしていたし、わたしもとても楽しんでいました。
特に第1楽章が良かったです。音の薄い室内楽的なアンサンブルの多い、ちょっとした失敗ですぐ崩壊してしまうような華奢な音楽を流れるように豊かにまとめたのが素晴らしかった。反対に、第2楽章はもう少し、突っ込んだ表現をして欲しかったなと思います。せっかく高く調弦されたヴァイオリンのソロが普通のヴァイオリンの音とあまり変わらなくて、オーケストラの中に入ってしまっていたのが残念です。これはソロイスティックにKYで弾いてもらいたかったです。
第3楽章は、この演奏が一番ぴったりはまるハズなのですが、少し油断したのか、多少の弛緩と停滞がみられてしまいました。もったいない。音楽がわりとストレイトに書かれているので、かえって仕掛けが欲しくなっちゃうのかなぁ。それとも、究極の美を求めちゃうので(MTTとロンドン・シンフォニーで聴いたとき、この楽章をぜひわたしのお葬式にと思った)、少しでも欠けると(なんと贅沢な!)目立っちゃうのかしら。
ソプラノの森麻季さんが入った第4楽章。麻季さんのまっすぐで素直で軽やかな歌は、マーラーの子供の世界のイメジにぴったりでステキ。ただわたしの席のせいか、声がいいときと悪いときの差がはっきり出ちゃったみたい。麻季さんってずいぶん前にワシントン・オペラ(現ワシントン・ナショナル・オペラ)で歌っていたのを聴いたことがあるのだけど、今は日本を中心に活動してらっしゃるのかな。1998年のオペラリアのコンクールで第3位入賞してドミンゴさんのワシントン・オペラに引っ張ってこられたんだと思うのだけど、この年の入賞者って1位にシュロットさん、2位がディドナートさんという錚錚たるメンバー。因みにわたしが初めて彼女を聴いたのは、ネトレプコさんの代役でジルダを歌ったときだけど、そのネトレプコさんと麻季さんとコンクールを競ったシュロットさんが後に結婚するんですね(って全然本題に関係ないワイド・ショウ・ネタでした)。

今日はステキなホールで、ステキなオーケストラ、ステキな音楽を堪能しました。素晴らしい夜。シティ・フィル良いですね〜。ヴィオラにちょっと難点があったけど、これからも聴いていきたいオーケストラでした。

by zerbinetta | 2013-01-18 21:40 | 日本のオーケストラ

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