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アリーナとセドリックの来日公演を勝手に応援する   

いよいよ今週末、来週と名古屋と東京でアリーナ・イブラギモヴァさんとセドリック・ティベルギアンさんのリサイタル、3夜にわたるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会がありますね。日本でアリーナのマネージメントをしているユークラシックさんや王子ホールのサイトに彼女のインタヴュウやエッセイが掲載されていました。キーーッ、何でアリーナのことたくさん聴いてるわたしにエッセイ書かせないのーー、なんてじたばたする。はずもなく素人のわたしも勝手にアリーナとセドリックの日本公演を応援することにしました。思い入れだけは人一倍あるから、わたしもちょっと参加してもいいかなって。主観タップリでお目汚しですけど。

アリーナとセドリックのデュオの特徴は、お互いが独立した音楽家で対等であるということ。わたしは、アリーナを協奏曲で初めて聴いたとき以来のアリーナのプチ追っかけでいるのだけど、最初の頃はアリーナのソロやキアロスキュロ・カルテットでしか聴く機会がなくて、アリーナとセドリックのデュオを初めて聴いたときもアリーナの音に耳を集中させていました。でも、よく聴いていくと、セドリックのピアノがアリーナの演奏を引き立てるという以上に、アリーナに仕掛けたり、仕掛けられたり丁々発止の音楽的な対話をしているのに気がついたんです。1+1が3にも4にもなるような、化学反応というより核反応。聞き耳を立てて聴くと、セドリックが痒いところに手が届く演奏をするだけではなくドキリとするような音を弾く瞬間にぞくぞくするの。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは、だからアリーナを聴くんじゃなくてアリーナとセドリックのスリリングな音楽を聴くんです。そしてその空気感はライヴでしか伝わらないことも多いと思うの。わたしも日本での演奏曲目であるベートーヴェンのヴァイオリンソナタのCDを持っているけど、そのうちの2つは、あの会場で聴いていたという幸運に恵まれています。会場が熱くなるようなエクサイティングな音楽。でも、CDで聴くと同じ音なのに何かが物足りないんです。そこに記録されている演奏はとても素晴らしいし、CDは愛聴版なんだけど、会場での音楽は遥かに凄かった。そんな機会を日本でも持てるなんてなんて幸せなんでしょう。

アリーナとセドリックは若い!だからちょっと目を離したすきに、ぐうんと進化します。アリーナとセドリックでラヴェルやルクーのソナタを3回聴いたけど、毎回少しずつ変わってきて、日々変わっていく音楽を感じることができました。バッハの無伴奏の大きな深化は驚異的です。最後に聴いた去年の演奏はCDで聴かれるのとは全然違う畏敬の念すら感じさせる、宇宙の真ん中にいるような音楽でした。そのとき「CDのとは全く違うさらに素晴らしい演奏でした」と感想を述べると、「そうでしょ」と、してやったりの表情を浮かべていたアリーナが印象的です。

アリーナとセドリックは、同じ頃、BBCのニュウ・ジェネレイション・アーティスト・スキームをもらっていて、そこからデュオが始まってる。2005年。だからおふたりは若くてももう長く組んでいる成熟したパートナー。最強のパートナーと言って良いでしょう。こんなに長くパートナーを組んでるのはムターさんとオーキスさんくらい?おふたりの音楽の相性がいいんでしょうね。

アリーナもセドリックもライヴの人。CDには収まりきれない音楽と即興性がある。ヴァイオリンを弾くアリーナの集中力にはすごいものがあります。弓の毛を何本も切りながら髪を振り乱してがしがし弾いたり(わたし的にはナンバーワン弓の毛切りすと)、すうっと伸び上がるように柔らかな高音を弾いたり、最近は低音もものすごくグラマラスになってきました。セドリックも意味ありげに誘うような音を入れたり、アリーナ以上にエキサイティングに盛り上がったり、さりげなく柔らかな和音を弾いたり。音楽は音だけで楽しめるものではないんです。耳と目と体全部で体験する芸術だということをおふたりは否応なく教えてくれるでしょう。

ロンドンのウィグモア・ホールでもチケットを取るのが困難な音楽会です(そのこと自体がとても珍しいのです)。
だから、ベートーヴェンのソナタは彼らのCDを持ってるし、と欠席を決め込んでいたらもったいなさ過ぎ。CDで知ってる人も、まだ知らない人もぜひ、聞き逃してはいけない音楽会です。ちょっとでも興味を持ったらぜひ。きっと、CDに満足している人ももう一度録音して〜〜と叫びたくなるような演奏が聴けるはずです。東京の方は、最後の日はもうチケットが残っていないみたいだけど、「春」も「クロイツェル」もない1日目の音楽会が一見地味なプログラムだけど、彼らの良さが一番出るプログラムだと思いますよ。
(ちなみに女子的にはセドリックはイケメンさんですよ♡ウフ。そしてアリーナはとってもかわいらしい人です)
何年か前に、「今度はぜひおふたりで日本に来て下さい」ってお願いしてみたことがついに実現です。ワクワクしています。

by zerbinetta | 2013-09-09 13:57 | 随想

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