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わたしもバビヤリスト♡ オーケストラ・ダスビダーニャ第21回定期演奏会   

2014年2月11日 @すみだトリフォニーホール

ショスタコーヴィチ:「女ひとり」より抜粋、交響曲第13番「バビ・ヤール」

岸本力(バス)
長田雅人/コール・ダスビダーニャ、オーケストラ・ダスビダーニャ


最近、ショスタコーヴィチをタコ呼ばわりするのにちょっと心を痛めてるのだけど、代わりにショスティーと呼ぼうかなと思いつつ今日もやっぱりタコ。そのタコの交響曲の中で今一番大好きなのが第13番「バビ・ヤール」。タコの最高傑作のひとつとわたしは信じてるけど、内容が鬱々と暗いせいか、音楽が少し分かりづらいせいか、声を使うのでコストがかかるせいか、残念にもほとんど演奏されません。わたしも聴くの2回目です。東京でアマチュアのオーケストラが演奏するなんて思ってもいませんでした。でも、オーケストラ・ダスビダーニャは、タコに特化したオーケストラ。ウィキペディアにもなぜか詳しい記事があるくらい。裏世界で蠢くタコファンの本気を見た。わたしだってタコに魅了されたタコラー。嬉々として革命歌を歌いながらはせ参じましたよ。トリフォニーホールはそんな同好の士で溢れるというか、タコ13がメインで、サブはタコの名も知らぬ映画音楽、アマチュアオケで、チケット代が2000円もする(アマチュア・オーケストラでは高い方)というディスアドヴァンテージがありながらホールをいっぱいにするという東京の底力を感じました。タコラーもしくはバビヤリストすごい。

最初のは、タコが書いた映画音楽、「女ひとり」からいくつかの曲を抜粋したもの。大きなオーケストラ、バンダの金管楽器(オルガン席での吹奏)、それにテルミン!初めて聴く曲、初めてテルミン見た!
映画の内容は、分からないけど(プログラムには書いてあったような気がするけど読んでない)、ファンファーレから始まって、昔の無声映画のカクカク動くコミカルな感じになって、テルミンが入るところでは宇宙人が地球を征服にやってくるようなおどろおどろしさがあって、何だか支離滅裂。音楽を聴いてたら逆に映画を観たくなっちゃった。ライヴの演奏で映画をやれば(すごく贅沢で)面白いのに。
演奏は、このオーケストラ音が大きいですね(いいこと)。予想以上に上手かったです。金管楽器と打楽器がきんきんと鋭く耳に突き刺さってくるのは座った席のせいかな。音楽については初めて聴いた曲だし、映画に付けた音楽なので何とも言えません。でもタコはユーモアの人だなぁって思いました。

テルミン・アンコールは、タコのこれも映画音楽、「馬あぶ」からの音楽。テルミンってどこにも触れないで演奏するので、エア楽器みたいだなぁ。楽器弾いてるふりしてるみたい。わたしでもできそうって思っちゃうけど難しいんでしょうね。それにしても、この奇妙な世界初の電子楽器、日の目を見ないうちに歴史的な楽器として消えていくのでしょうか。それともマニアックな楽器として愛好者が増えるのかしら。タコがもう少し曲を書いてくれれば良かったのにね。

で、いよいよ「バビ・ヤール」。
大好きなので期待も無限大。でも、2回目だから少し落ち着いていたかな。初めてのときは興奮しすぎて、何だかよく分からないうちに終わっちゃったもの。
音楽が始まったとたんゾクゾクときちゃった。タコ愛に満ちたオーケストラはタコの音で弾いていたし、合唱が上手い。実は、チラシで合唱を歌う人を募集していたのを見て、わたしもバビ・ヤール歌いたい!って思わず応募しちゃう勢いだったけど、ちくしょーバスだけなのよね。せめてわたしがトライアングルの名手だったらオーケストラに無理にでも混ぜてもらうのに。ひとつ残念だったのは、独唱の岸本さんの声がこの曲を歌うには少し軽く、音量に乏しかったことかな。大きなホールで巨大なオーケストラと対峙するのでマイクを(上手に)使っても良いかなと思いました。でも、身振りをたっぷり使った表現意欲や思い入れは素晴らしく、音楽にあるものを全身全霊で表現していました。これはひとり岸本さんだけではなく、指揮者の長田さんやオーケストラ、合唱の全員がそうでした。愛の力って強い。
歌詞の日本語訳がプロジェクターで表示されたのも良かったです。改行や文字サイズのネット世代的なこだわりも、う〜ん、わたしは、ところどころの文字サイズを大きくして強調するのはやりすぎかなとも思いました。詩の力はそれだけで十分あるので。詩人が相田みつをさんのように書にもこだわっているのなら話は別ですけどね。実はわたし、音楽を聴くときには、歌の意味には無頓着な方なんです。この曲を聴くときも、詩の言葉についてはほとんど気にしていませんでした。これは、バビヤリスト失格ですね。すごく恥ずかしい。そんな当たり前のことが、今日、詩を見ながら聴いてやっと分かったなんて。

第1楽章「バビ・ヤール」は、これはもう烈しく心を突き動かされました。今日の演奏は、とても真摯で、真面目。その分、タコの持つユーモアが少し後ろに下がりましたが、それでもざらついた、心を削る音楽は素晴らしかった。特に、この第1楽章ですね。それに、詩の言葉が、今のわたしの日本に痛烈に突き刺さってきて、ユダヤ人を韓国朝鮮人や中国人に置き換えればまるで。わたしたちの国は、タコが批判したソヴィエトのようになっていくんでしょうか。タコの音楽は、20世紀にあって調性の枠を超えない、古びた音楽のようにいわれるけど、背後にある精神はまさに現代そのもの。先鋭的な現代芸術でないと誰が言えるでしょう。研ぎ澄ましたメスで死体を切り刻むよう。

「ユーモア」「商店にて」「恐怖」とさらに暗く鬱々した音楽が続くんだけど、今日の演奏はまったく隙無く、呼吸を重苦しくするほどにショスタコーヴィチ。ふっと日の差す瞬間があってもいいとも思うんだけど、指揮者もオーケストラも歌もざらざらとした世界に沈潜していく。なんか救いのない絶望感。ここまで徹底的に音楽を追い込んでいくなんて。さっき書いたように、わたしは皮肉な笑みを見せる、少し滑らかな部分がある方が好きだけど、ここまでやられると肯くしかない。ずううっと心を削られっぱなし。それが「ヒトラーを体験してしまった後の人類のための第九」なのかもしれませんね。でも、ヒトラーを体験してしまったのに、また同じようなことを繰り返そうとしている人類。記念碑はない。立てられることもないのだろうか。

ふうっと優しい瞬間が訪れる音楽に、いつもわたしは涙するのだけど、今日は、ふふふ、「お花畑」ではなく冷たい風が吹き抜けていた。ここで、世界が変わって、諦観というか、届かない希望への憧れというか、心が砕けちゃうんだけど、今日の演奏は、そこまで至らず殺伐とした思いを残したまま。涙が涸れるほどに圧倒的に絶望的な音楽のあと、ふうっと抜け出した魂のように自由になるというのは、望みすぎでしょう。わたしには、満足以上の衝撃的な音楽会でした。音楽も演奏もすごかった。

それにしても、ダスビダーニャってタコラーのわたしにとって素晴らしすぎるオーケストラだわ。音楽会は1年に1回しかないけれども毎年それを楽しみに待ってられそう。充実したプログラム冊子もタコ愛に満ちて読み応えがありそうで、タコラーにはずっしり。リポビタンDのDがドミトリのDだったことを知ってニタニタ。喜んでリポD飲んで興奮してみたり。オーケストラの名前、ダスビダーニャはロシア語で「またね〜」という意味。皆さんダスビダーニャ!来年は何を演るんだろう。今から楽しみ。

by zerbinetta | 2014-02-11 22:44 | アマチュア

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