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圧巻 新国立バレエ ビントレー「ファスター」「カルミナ・ブラーナ   

2014年4月25日 @新国立劇場

「ファスター」

マシュー・ハインドソン(音楽)
デヴィッド・ビントレー(振付)

新国立劇場バレエ団
ポール・マーフィー/東京フィルハーモニー交響楽団


「カルミナ・ブラーナ」

カール・オルフ(音楽)
デヴィッド・ビントレー(振付)

湯川麻美子(フォルトゥナ)
小口邦明、古川和則、タイロン・シングルトン(神学生)
五月女遥(恋する乙女)、長田佳世(ローストスワン)、他

安井陽子、高橋淳、萩原潤(独唱)
ポール・マーフィー/新国立劇場合唱団、東京フィルハーモニー交響楽団


今シーズン限りで退任になる、デヴィッド・ビントレー芸術監督の作品をふたつです。「ファスター」は一昨年、ロンドン・オリンピックを記念して作られたもの、「カルミナ・ブラーナ」はビントレーさんがバーミンガム・ロイヤル・バレエの芸術監督になって初めて手がけられた作品で、新国立バレエでは今回が3回目の上演だそうです。「ファスター」の方は、一昨年、バーミンガム・ロイヤル・バレエがロンドンで公演を行ったとき観ていますが、「カルミナ・ブラーナ」は初めてです。大がかりな音楽に戯れた詩。中世の学生たちのコンパのノリ。大きなオーケストラに合唱、少年合唱、3人の独唱が入るのであまりオーケストラの音楽会でもかからない曲。正直に言うとそんなに好きな曲とは言えないんだけど超楽しみ。友達がすごくいいって言ってたしね。

「ファスター」は、オリンピックのいろんな競技をバレエで演じたもの。そこにちょっぴりストーリーが入っていたり。感動するとかじゃないし、音楽も打楽器賑やかにしたアダムズさん系の、つまりミニマムっぽいのだし(わたしミニマム苦手)、わたし的にはそれほど惹かれる作品じゃないけど、あっけらかんと観てると、すかっとするというかエネルギーをもらえるもの。前に観た、サドラーズの劇場よりも新国の方が舞台が俄然広いのでダンサーたちが動き回る、走り回る。もうエネルギーの発散が凄い。わたしだったらすぐ息上がりそう。舞台のせいもあるし、音楽も生なので、本家バーミンガム・ロイヤルよりも迫力あるしずっといい。それにこんなに揃った群舞は新国バレエ向き。この演目と「カルミナ・ブラーナ」を通して今日は、長田さんがさりげなく目を引きました。いいところで踊ってるんだもの。上手いし。マーフィーさん指揮の東京フィルもパワー溢れるとても良い演奏でした(作曲者のハインドソンさんも凄く素晴らしかったと褒めてらっしゃいました)。

そしていよいよ「カルミナ・ブラーナ」。誰もがテレビから流れてくるのを聞いたことがある有名な音楽が始まって幕があがると、黒のタイトなミニドレスに、ハイヒール、目隠しをした運命の女神(フォルトゥナ)にスポットライト。まさに彼女のためにその役があるといわんばかりの威厳と圧倒的な存在感を持って踊ったのが湯川さん。湯川さんこそ運命の女神なのだ。このソロの踊りが、もうかっこいいったらありゃしない。かなり難しいと思うのだけど、湯川さんの完璧なかっこよさにわたしももはや運命の操り人形。わたしの知ってるバレエの中で、ぶっちぎり最もかっこいい踊りだわ。ただ、わたしが悔しいのは、多分サイン・ランゲージを多用したこの踊り、サインの意味が分かればもっともっと深く分かるのにって思った(もちろん知らなくても感動するのだけど)。うちに帰って、鏡の前で顔にちょき当てたりしてるあほなわたし。ああ、この振り覚えたい。わたしも踊ってみたい。

最初の湯川さんのソロだけで、テンション高くなってしまったけど、次から次へと繰り出してくる斬新でときどきポップ、猥雑だったり古典的だったり、でも決してバレエのイディオムからヘンに逸脱しないで節度を保ってる。芸術的でもあり娯楽性もあるビントレーさんの面目躍如。そして、特筆すべきは、音楽と踊りが完全にマッチしているということ。知らなかったけど、もともとオルフの音楽は舞台用の作品(バレエというわけではなさそうだけど)と書かれているのが、本当にこのバレエを得て水を得た魚というか。核反応のように1+1が4にも8にもなるんです。これは20世紀バレエの代表作のひとつでしょう。

運命が終わった後、物語が始まる。それは3人の神学生によるそれぞれの物語。神学を捨てて、裸になって俗世間で遊ぶ。今の学生さんと一緒。始めの方の静かな部分での妊婦さんの踊りがわたしにはものすごく印象的で、ぐっと来てしまいました。春の豊穣の踊り。ハイヒールといい、妊婦さんといい、今までのバレエになかったような要素。でも決して奇抜ではない、必然性を感じる。
酒屋でのローストスワン(白鳥と言うより七面鳥にも見える二重性)の踊りとそれを取り巻く男の猥雑さ。食欲とセックスが象徴的にひとつの意味になって、こんなふうにカルミナ・ブラーナの世界を体現するなんて!長田さんのローストスワンがコケットで魅力的でした。キラキラと光ってる彼女。
最後は人に降りてきた運命の女神との恋が成就すると思いきや、柔らかな大きな布を使った見事な場面転換があって、始まりに回帰される運命の音楽とともに、運命の女神の無慈悲な勝利。運命がたくさん増殖して、素晴らしいクライマックス。
ほんとに凄かった。1回観ただけで心が揺さぶられた。もっと観たいです。わたしのチケットは1回観ておこうと買っておいた今日の分だけ。でも観る。観に来るもん。幸い、というかとっても残念なことに、お客さんが少なくて残りの公演のチケットもまだまだあるので。でもね、バレエ・ファンの皆さん、この演目こそが今、新国立劇場で観るべきバレエだと思うんですよ。「白鳥の湖」ばかりしか観ていなければバレエはそれこそ伝統芸能化してなくなってしまう。食わず嫌いはもったいないです。

残念ながらわたしは、本家バーミンガムでこのバレエを観たことがないのだけど、でも確信します。新国バレエ団は本家に負けず劣らずこの作品を踊ってる。まさに新国バレエの良さを体現できるバレエで、この作品は新国バレエの重要なレパートリーのひとつとして繰り返し演じられるべきだと。来シーズンからは監督が替わるけど、そんなこと関係なく、「白鳥の湖」同様、新国バレエのスタンダードな演目にして欲しいです。

音楽はオーケストラと合唱が大健闘。独唱は少しわたしの好みではありませんでした。特にテナーが(多分わざとああいう歌い方をしてるんだと理解はしてるんですが)。それにしてもピットの中の合唱や独唱の声まで、上の方まで飛んできて、新国立劇場はとても音響の良い劇場だと思いました。しつこく言いますが、ここでバレエ音楽をバレエ付きで聴くことは、クラヲタさんにぜひお勧めしたいです。次回は、めったに聴けないブリテンの「パゴダの王子」ですよ〜。ブリテンって「青少年のための管弦楽入門」だけじゃないんだからっ。(クラヲタさん的にはピーター・グライムズかしらね)

by zerbinetta | 2014-04-25 10:40 | バレエ

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