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デブ礼賛 文楽「不破留寿之太夫」   

2014年9月14日 @国立劇場小劇場

不破留寿之太夫

シェイクスピア(原作)
鶴澤清治(監修、作曲)
河合祥一郎(脚本)
石井みつる(美術)

豊竹英大夫、豊竹呂勢大夫、豊竹咲甫大夫、豊竹靖大夫
鶴澤清治、鶴澤藤蔵、鶴澤清志郎、豊澤龍爾、鶴澤清公

桐竹勘十郎(不破留寿之太夫)、吉田和生(春若)
吉田簑二郎(お早)、吉田一輔(お花)
桐竹紋臣(旅人)、吉田勘市(居酒屋亭主)
吉田玉佳(蕎麦屋亭主)、大ぜい(家来、町人)


オーケストラHALを聴いたあとは、初めての国立劇場で初めての文楽。ヴェルディの最後のオペラの元にもなってるシェイクスピアの「ウィンザーの陽気な女房たち」と「ヘンリー4世」を翻案した新作「不破留寿之太夫(ふぁるすのたいふ)」。初めて観る伝統芸能、文楽がちょっとエキセントリックな新作、というのはわたしらしいけど(バレエを初めて観たときもかなり変わった作品でした)、ヴェルディのオペラで親しみあるし、これは何より観なくちゃと思ったんです。古典はあとで観ればいいから。

音楽会との間に時間がちょっと中途半端にあったので、早く着いてロビーで本でも読んでればいいかと思っていたら、国立劇場って時間前には(他の公演をやっていて(?))建物の中には入れないのね。情報館でヴィデオ観たり、仕方なく外のベンチに座ってたけど、冬だったり雨の日だったりしたら大変そう。これちょっと不親切すぎない?(有料のレストランみたいところはあります)

文楽を含めて日本の伝統芸能に全く詳しくないんでトンチンカンなことしか書けないんですが、文楽がロックだとすると(いやだって義太夫ってやっぱりかっこいいよ。太棹の音を谷崎潤一郎が絶賛してたのもこういうことだったのかって分かって)、今日の新作はパンク。だって、太鼓や笛(舞台裏)、琴が入ったり、太棹の弦を弓で弾いたり(普通しないよね?)、グリーンスリーヴスが聞こえたり。完全に伝統の傘のうちに乗せると思ってたら違っていたのでびっくり。伝統的な文楽の形を観たいと思った人にはがっかりだったかもしれないし、足りないところはあったのかもしれないけど、わたしは良かったと思いました。
大夫と三味線は始まりの部分と本編で変わったんだけど、本編の人たちは、素人のわたしでも分かる、全然違って力がありました。最初からすごいなとは思っていたんだけど、変わったらもっと凄くなって。作品を作った太棹の鶴澤さんって人間国宝の方だったんですね。至福。大夫の声が太棹とかの音色とものすごく合っていて、一体となって音楽を作るのが素晴らしかったです。音の少ないシンプルな音楽で長く時間をかけて作られてきたものの美しさを感じました。

文楽の人形は頭が小さくて10頭身くらい(?)。顔が小さいのは、表情が見づらいので舞台には不向きとも思ったんですが、大きければ重くなって操作ができなくなるし、小さな劇場で上演するから問題ないんですね。でも予想外(わたしは頭が大きな人形だと思ってた)のプロポーションの良さにモデル体型ねとクスッとしてしまいました。
3人で動かす人形は、人形劇をみてると言うより、本物の人が動いてるみたい。というか、人形遣いは人形に本当に命を吹き込むんですね。

初めて観る文楽は、新鮮で観に来て良かった。たくさん笑ったし、大いに楽しめました。今度は古典を観に来たいです。近松門左衛門とか観たいもの。

お話は、ヴェルディのオペラより膨らませた部分と省略した部分があって、でも、オペラを知っていればだいたい分かるし(っていうより日本語だから分かりやすいよね)、人間のペーソスは日本人も西洋人も変わらないし、人の様のおかしみは普遍的。ただ、日本の伝統芸能の文脈の中に取り込まれた物語は、日本の空気感を身に纏っていたように思います。人のおかしみ、哀しさが日本人のわたしにより身にしみてくると言うか。最後の空しさが、全ては冗談からそのあとに来る寂寥感に置き換わっていたように感じました。

不破留寿之太夫は無責任で怠け者、嘘つきで行き当たりばったり、とおよそ人間のくずだけど、享楽的なポジティヴさを併せ持ってるあまりお付き合いしたくない人。だけど惹かれてしまう。日本人としては、寅さんやバカボンのパパに通じる人。でも、彼の、戦いなんてそんなつまらないことして何になるんだ、酒でも飲んで楽しく暮らしていく方がよっぽどいいというのは、今の時代に突きつけられた命題なのかもしれませんね。不破留寿之太夫の独白で、他の人たちには不真面目なことのようで理解されなかったけど、現代の私たちの現状もとても似ていると思う。不破留寿之太夫は、不真面目な人物だけど、このお話の中に、誰も彼を理解しなくてもわたし(作者でありわたしであり)は彼を礼賛する想いのようなものが底にあったように思えるんです。人に迷惑をかけない程度に不破留寿之太夫のように生きたいと思ったのでした。

最後、グリーンスリーヴスはずるいなって思ったんですが、だんだんじんわりと感動しきて、劇場をあとにしながらゆっくりと泣いていたのでした。

by zerbinetta | 2014-09-14 23:31 | 舞台

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