さらなる深みへ アリーナ・イブラギモヴァ バッハ無伴奏   

2014年12月21日 @王子ホール

バッハ:無伴奏ヴァイオリン ソナタ1番、パルティータ1番、ソナタ2番
バッハ:無伴奏ヴァイオリン パルティータ2番、ソナタ3番、パルティータ3番

アリーナ・イブラギモヴァ(ヴァイオリン)


今年のわたしの音楽会のクライマックスと言っていいでしょう。クリスマスに聴く、アリーナのバッハ無伴奏。最高にステキなクリスマスプレゼントになりました♥全6曲を3曲ずつ、2回の音楽会を1日のうちにやります。ものすごい体力、集中力。聴いてる方も大変ですから。思い起こせば、リゲティの協奏曲を聴いて、ファンになるぅ〜、追っかける〜と決めてから初めての音楽会。ロンドンの歴史的な病院と小さな教会でやった音楽会が、今日と同じ、バッハの無伴奏を2回の音楽会で1日でやるというもの(今日と違うのは1回目と2回目の会場を近所の2カ所に分けたこと)。すぐ前に、CDに記録された演奏と同じ、風が囁くようなステキな演奏でした。そして、それから、何回かバッハの無伴奏のいくつかを聴いてきたんですけど、CDのとはまるで違う演奏へと音楽はどんどん深化してきたのでした。そして今日、数年ぶりに彼女のバッハ無伴奏を全曲聴くことができる幸せ。前回聴いた前半3曲からどれほど深化しているのか、6曲をどう弾くのかものすごく楽しみにしていました。そして、予想以上、期待以上の凄いものを聴いて心が震えています。

音楽会は、ソナタとパルティータをかわりばんこに番号順に。なので、最初の音楽会は、地味な3曲、後半では、パルティータ2番のシャコンヌやソナタ3番のフーガと大物揃い。そして軽めのパルティータ3番で音楽会が閉じられます。なんかバランス悪い感じもするんだけど、これで最初から最後まで聴かせてしまう彼女の凄さ。一応2つの音楽会なんだけど、多くの方が一連の音楽会として両方聴きに来られていたようです。

まず、驚いたのは、アリーナ上手くなってる!!もともと上手い人に失礼な言い方だけど、わたしは、最初にアリーナを聴いたとき、凄い音楽の人だとは思ったけど、名手だとは思わなかったんです。上手い人なら、例えばヒラリーの完璧さの方がずっと上(もちろんヒラリーは上手いだけの人ではありません)だと思っていました。初めてバッハの無伴奏を聴いたときも、ソナタ第2番のアンダンテの下の刻みのリズムがときどき乱れて弾きづらそうでしたし。でも、今日は真っ先に、無伴奏ソナタ2番のアンダンテ!と叫びました。なんという進化。初めて聴いたときから彼女がどんどん素晴らしくなってきたのは聴いてきましたが、ここまで技術的に進化してきたなんて。音楽が深くなる過程は、何人か聴いてきたけど(もちろんアリーナも)、目に見えて(耳に聞こえて)上手くなる、それも凄く、のを聴いたのは初めて。驚愕。どんなときも余裕があって、それに、彼女の代名詞とわたしが勝手に思っていた、弓の毛切れが今日は1回もなかったのもびっくり。毛切れが演奏に影響することはないと思うのだけど、余計な力が入らなくなったから、なんて素人の想像ですけど。

技術的な冴えはもちろん音楽に生きてきます。今日聴いてもうひとつびっくりしたのは、バスの扱い。通奏低音的なリズムの刻み方、バスのような音色の作り方が、素晴らしすぎて、1艇のヴァイオリンで通奏低音と旋律を同時に弾き分ける神業。こんなの聴くの初めて。多分、共演していたアカデミー・オヴ・エンシェント・ミュージックとの共同作業の成果でしょう(このコンビで来年か再来年来日にしますね)。そうとしか思えない、バロックの通奏低音ヴァイオリン。これがあったので、舞曲を集めたパルティータのゆっくりとした曲やもちろんソナタ第2番のアンダンテの演奏が、生き生きとしてきて、地味な曲なのに体がリズムに反応するようなステキな音楽になっていました。凄い。
それに、もう入り組んだ対位法的な複数の旋律それぞれを独立して自由に振る舞う生き物のように弾くんです。なんかひとりではなく何人かで合奏してるみたいに。聴いててそれぞれの声部がちゃんとそれぞれ歌われてるのが分かるんです。もちろん1艇のヴァイオリンでいつもいっぺんにたくさんの音を弾くことはできないから、ある旋律線は、きっかけだけで実際の音は途切れ途切れになってたりするんだけど、それがちゃんとつながってひとつの歌になって聞こえるんですね。アリーナはそれを実に自然にさりげなくやってのけるんです。わざとらしさや苦し紛れのところがちっともなくて、余裕があって丁寧で繊細。4声のフーガの実にステキだったこと。

そしてもうひとつ大きな変化は、音楽が大きくなってCDの頃のwhisper(囁き)からvoice(声)になっていたこと。この変化は、彼女の無伴奏を何回か聴いてきて予想はしてたんだけど(最後に聴いた2年前にその変化にびっくりしたから)、全6曲を通して聴くとその凄さがさらに分かるの。もちろん、囁くような演奏の方が好みという人もいるでしょう。でも、シャコンヌやソナタ第3番の大きなフーガの演奏を聴いていると、アリーナの深化がバッハの音楽への探求と共にあって、バッハの音楽の深みへわたしたちを巻き込んでくれることに嬉しい涙が出るんです。もちろん声高に叫ぶわけではない。でも以前よりよりバッハの言葉が聞こえるんです。静かな声で語りかけてくるみたい。バッハにとって音楽は言葉。ロゴスです。神と共にある言葉。そしてアリーナは、言葉を伝える巫女でしょうか。ひとりステージに立つアリーナの元に音楽の神さまが舞い降りてきたみたい。そこには、アリーナもヴァイオリンも、ない。音楽だけが在る。

この素晴らしい演奏。バッハの模範的な演奏。とは言わない。今の最高の演奏だけれども、それは終わった瞬間から過去のもの。もっと高く、もっと深いバッハが彼女には見えてくるはず。彼女自身、これを模範だと思っていないに違いない。だからこそ、わたしは追いかけても彼女のバッハを聴き続けなければいけないんです。CDの演奏なんてどんなに良くてもその通過点の記録に過ぎないんですから。でも、芸術家が身を削って生み出していく音楽ってそういうものでしょ。

それにしても、アリーナ、たくさん来日してくれますね。アリーナ、日本が好きなのかしら。それに日本のマネジメント会社さんの努力にも心からの感謝しなければいけないでしょう。
次の来日は、モーツァルトの協奏曲(名古屋は確かベルクの?)とティベルギアンさんとのモーツァルトのソナタ全曲シリーズですね。もう楽しみでたまらない。
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by zerbinetta | 2014-12-21 01:20 | 室内楽・リサイタル

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