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いびつな真珠の極み レ・ポレアード+SPAC 「妖精の女王」   

2015年12月11日 @北とぴあ

パーセル:「妖精の女王」

エマ・カークビー、広瀬奈緒(ソプラノ)、波多野睦美、中嶋俊晴(アルト)
ケヴィン・スケルトン(テナー)、大山大輔(バリトン)
寺神戸亮/レ・ポレアード
宮城聰(演出)/SPAC


去年聴きに行って楽しかった北とぴあ音楽祭。もちろん今年もデス。バロック音楽に重心を置いて、今年は、パーセルのオペラ「妖精の女王」。古楽界の永遠のアイドル、エマ・カークビーさんが歌うのが目玉です。そして、こんなステキな音楽会が格安で聴けるのです。万難排します(日フィルの定期を振り替え)。

北とぴあは王子。去年来てるから余裕よねと、自信を持って駅を降りたら見たこともないところ。駅間違えた?いえいえ、出口が違っていたのですね。きょろきょろして信号につっかえつっかえなんとか会場に着いて、開演前のロビー・コンサートに滑り込み。上野学園大学古楽アンサンブル(プロではなくサークル活動みたいなのかしら?)による、「もうひとつの妖精の女王」ーヴァージナルの響きと共にーと題された演奏会。バッハの親戚のヨハン・ベルンハルト・バッハの「妖精の女王」のテーマによるシャコンヌ(オルガン独奏)やヴィオラ・ダ・ガンバやリコーダー、ヴァージナルのソロのための作品。全員の合奏でパーセルの(ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」の元になった曲を含む)「アブデラザール」が演奏されました。近くで見るヴァージナルの装飾もきれいで(フェルメールにヴァージナルが出てくる絵が何点かありますね)、昔の楽器って美術工芸品としてもステキで、総合芸術的ですね。今度は、野暮なロビーじゃなくてお屋敷の間で聴きたいですね。雰囲気も楽しみながら。

36歳で若くして亡くなったイギリス・バロックを代表する(というかイギリスを代表する)大作曲家ヘンリ・パーセルのオペラ「妖精の女王」。シェークスピアの「夏の夜の夢」を元にしたオペラなんですね。わたしの知識はたったここまで。あと、古楽界の妖精、カークビーさんを初めて聴く楽しみ。ロンドンでは彼女を聴く機会に恵まれなかったんですよね。小さなところで歌っていたようでアンテナに引っかからなかったの。

音合わせが終わって、指揮の寺神戸さんがまさに、指揮棒をおろさんとした瞬間、会場のどこかから大声が。えー誰だよーサイアクーと思ったら、お芝居が始まったのでした。演出に一杯食わされた。一本取られてしまいましたよ。そうなんです。あとで知ったんだけど、パーセルの「妖精の女王」はオペラと言うより劇付随音楽に近い形。セミオペラと言うんだそう。音楽とは別に劇が上演されるんです。完全に歌と音楽が支配するオペラの脇に、こんな、劇と音楽の融合があったんですね。その後も「アルルの女」とか「ペールギュント」とか劇付随音楽は書かれているけど、廃れてしまった感じがあります。音楽と劇を同時に上演することに難しさがあるのでしょうが(例えば、音楽向きの会場と劇向きの会場は違うとか)、今日、「妖精の女王」を観てとっても面白くて、わたしは、むしろこの形式に今のオペラを活性化するヒントがあるような気がしました。そんな難しいことは言わなくても、だってほんと面白かったんだもん。もっとこういうの観たいって素直に思った。「アルルの女」とか「ペールギュント」とかどこかでやらないかしら。バレエ版でもいいのだけど。

宮城さん演出のSPACの劇については、わたし、演劇はあまり観てこなかったので、良い悪いは分からないのだけど、ヒトコト、面白かったぁ〜〜。劇だからこそ、シェイクスピアの戯曲にかなり忠実で(錯綜している作品なのでオペラ(ブリテン)やバレエ(メンデルスゾーン/アシュトン)のは物語をかなり刈り込んでます)、言葉の速さや役者のスポーティーな動き(テナーの人も側転とかしてた!)が全体の運動を作っていて、基本的に妖精界を彩る音楽のゆったりとした空気(音楽のテンポの速い遅いではなくて、歌になった言葉の長さという意味で)とステキな対照をなしていて秀逸。妖精界(に迷い込んだ人間も含めて)を舞台に立てられた梯子や棒の上で地に足を付けずに表現するアイディアも素晴らしいの。

それに加えて、これでもかというくらい、小ネタやら音楽の飾りでもうお腹いっぱい楽しかった〜〜。バロック音楽って、バックグラウンドミュージック的なヴィヴァルディの「四季」の演奏(ちゃんとした演奏なら凄く刺激的なのに!)やアルビノーニの「アダージョ」やらパッペンベルの「カノン」やらのイージーリスニング的なものが染みついちゃって、バロック=いびつな真珠というのが、いまいちピンとこなかったんだけど、今日のオペラを観て、バロックってまさにいびつ、とんでもないくらいいびつでごつごつして、刺激的で、古典派やロマン派の音楽よりはるかに現代的というか同時代的に聞こえました。何でもあり感が凄いんです。

初めて聴くカークビーさんは、声が小さくて(と言っても全然聞こえないって言うわけではありませんが)、こんなもんかな、って最初思っていたんです。他の歌手の人たちもみんな良くて、カンパニーとしてまとまりがあるから、演技的にも直前に合流したと思われる、それにお客さん扱いのところも見られた、カークビーさんが浮き気味で。でも、それを逆手に取った演出(出演者と記念撮影したりサインを求められたり)も上手い。そして、「嘆きの歌」。結婚式のあとに挿入される悲しみの歌。。。それがバロック。カークビーさんのこの歌は、今日の公演のある意味音楽的頂点だったかも知れません。歌うというより、言葉を語る。その強さ、悲しさ。音楽を伴って言葉がこんなに強く鋭く突き刺さってくるとは。メロディを従えたシュプレッヒゲザング!
そしてまさかの、カークビーさんの和装!!やるなぁ。こんなものまで見せられるとは。カークビーさんも楽しそうにしてらしたし、良いもの観た。

寺神戸さんとレ・ポレアードのオーケストラもとっても垢抜けていて、去年よりもひとまわりもふたまわりも大きくなっていた感じ(多分、劇がオーケストラを刺激したのでしょう)。パーセルの書いた音楽も刺激的で、派手なティンパニの乱れ打ち(?)にはニンマリ。やっぱりバロックって凄いよぉ。ルールがまだ緩やかだった分、もう何でもありだもの。

ほんと、今日は、演劇と歌とオーケストラが、バラバラにそれぞれ突き抜けた、いびつな巨人を見たような素晴らしい体験でした。バラバラでまとまるって凄いよね。

by zerbinetta | 2015-12-11 23:44 | オペラ

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