人気ブログランキング | 話題のタグを見る

前代未聞! リモート指揮者 ストラヴィンスキー、ベートーヴェン 東響   

2020年7月25日 @サントリーホール


ストラヴィンスキー:ハ調の交響曲

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」


ジョナサン・ノット(映像出演)/東京交響楽団


17年ぶりに突如、新宿に復活した自由が丘にあった伝説の紅茶屋さん MURA でまったりとカレーとチャイをいただいて(これがうんと美味しいんだな)、六本木に移動。東響の定期。話題は、来日叶わないノットさんのリモート指揮。2つのプログラム(オペラシティ・シリーズと東京定期)で前者は1週間前に、そしてわたしが聴きに来たのは東京定期の2回目(なんと普段は1回の公演を同日マチネとソワレの2回に!)。このプログラム、おとといフェスタ・サマー・ミューザの開幕公演もやっているのでオーケストラとしては3回目(最終回)ということに。前代未聞のリモート指揮ということで、どんな風になるのか情報をなるべく見ないようにしてワクワク重視。


始まりは、ストラヴィンスキーのハ調の交響曲。なんと指揮者なし、コンサートマスターのグレブ・ニキティンさんの弾き振り。一体誰がこの曲を選んだのでしょう。もともと予定されていたのではなく、(指揮者なしの)この公演のために選ばれたのだけど、よくもまぁこんな複雑な曲を。チャレンジャーだわ、東響。

ドキドキハラハラしながら聴き出したものの、自発的にそこここで発生するアンサンブルがツボにはまって、緩急自在、クサビのような強打も躊躇なく正確に放たれて、素晴らしい。東響って団員の皆さんが仲良しな雰囲気を持ったオーケストラなんだけど、それが良い方に跳ね上がって、ひとつの音楽の果実を見事に実らせるの。カラフルに飛び回る音たちの生き生きとした生命。まいりました。もちろん、こんな曲(新古典の時代のだけど、変拍子やら気まぐれ満載)だから指揮者がいると、よりスリリングなスパイスの効いた演奏もできるでしょうけど、仲間の音や息づかい細やかな動き、耳と目の感覚のプローブを全方向に張り巡らせて自分たちの音を発する、これって カ イ カ ン。


ヴィデオ・モニターを4台、指揮者の位置に置いて(1台は客席向き)、3台のモニターに映る指揮者を観ての、リモート指揮による「英雄」。4方向から指揮者を映した映像をそれぞれのモニターに出すのかなと思ったら、全部同じ正面からの指揮姿。全員が同じ指揮者の姿を見ることに。

「英雄」は、数年前にもノットさんが東響で振っていて、その時の斬新な演奏は耳に残っているのだけど、基本的には、同じような快速テンポでアクセントをつけた刺激的な演奏。なのだけど、、、モニターに映る指揮姿に、合わせようとしちゃう感じがして、ちょっと消極的かも。ストラヴィンスキーで聴かせた耳を弾くようなはつらつさが若干薄い。もちろん、このコンビですでにやったことのある安定感はあって悪い演奏ではないのだけど、ノットさんがいつも仕掛けてくるような予定不調和的なスリルはなくて、この形式での演奏も3回目とあって慣れが出てしまったかな。それでも、フィナーレでノットさんはテンポを大きく動かして面目躍如、ここで少しオーケストラにもめまぐるしくヴェクトルを変化する加速度への争いを感じれれて最後はすっきり。第1ヴァイオリンが8人の小編成でも、不足を感じさせないのも流石。むしろ各パートがクリアに聞こえてきて良かった感。


実は今日一番心に沁みたのは、プログラム冊子に書かれていた、この音楽会をやるに至った顛末。ノットさんの執念と振り回される事務局の苦悩(?)が赤裸々に綴られているのだけど(ここで読めます。リンク切れになっていたらごめんなさい)、正直めちゃ感動しました。ノットさんステキ、東響らぶ。Never let a good crisis go to waste. コロナ禍で困難な中、一番攻めてるのは東響かも。禍が明けたとき進化したオーケストラとノットさんの新しい時代が始まるんじゃないかしら。


通信技術がもっと進んで、リアルタイム双方向画像が送れるようになれば、リモート指揮者はオーケストラの表情を見、音を聴きながら指揮できるようになるかな。そうなれば、指揮者が世界を飛び回ることなく、自宅にいながらいろんなところのオーケストラと演奏することができるようになるかも。そうなったらゲルギーなんて世界中で年に1000回くらい音楽会するぞ。現場に指揮者がいなければ本当の音楽なんて、なんて眉をひそめる人もいるだろうけど、目を瞑って音楽を聴く人も沢山いるし、指揮者も奏者もすぐに慣れて普通に演奏できるようになる気がする。っていうか、モニターに映った指揮者を見て演奏するのってすでにオフステージのバンダや指揮者に視線をやれない歌劇場ではすでに当たり前にやってるのもね。楽しみ~~ではあるかも?(あえて疑問形)





by zerbinetta | 2020-07-25 23:43 | 日本のオーケストラ

<< 最強のベートーヴェン指揮者 久... 季(とき)を環(め)ぐるシンメ... >>